プログレス 明日のサービスを築いた十年 2010-2020 日本点字図書館創立80周年記念誌 「プログレス」編集委員会 編 日本点字図書館 テキスト版 日本点字図書館 2021年製作 この図書は、著作権法第37条第3項に基づいて製作しています。又貸し、複製等による第三者への提供はできません。 テキスト凡例 テキスト化するにあたっての製作者の注は、〔 〕(亀甲カッコ)の中に記述しています。 凡例、終わり 発刊にあたって 理事長 田中徹二  日本点字図書館は、2020年11月10日に、創立80周年の記念日を迎えました。これを機に、70周年からの10年間の実績をまとめることになりました。それが本書です。  大変残念でしたが、創立80周年の記念式典は、新型コロナウイルス感染拡大のため中止せざるを得ませんでした。したがって、80周年に関しては、本書と『日本点字図書館のあけぼの』の刊行だけで済ませることになりました。両書によって当館の実績をご理解いただきたいと存じます。  この10年の中で、私にとりましてはインターネット・ライブラリーのサピエの存在が最も大きな影響を与えてくれました。それは読書環境が一変したことによります。毎日、サピエの新着情報を見て、読みたい本をダウンロードしています。年間何百冊になるのか数えたこともありませんが、それ以前に比べますと読書環境は圧倒的な差です。ほとんどが小説ですが、様々な作家との出会いには尽きない喜びがあります。今や趣味は読書と言っても過言ではありません。  また、サピエには、音声版だけでも2020年11月現在で、週刊誌が10誌、月刊誌が117誌アップされ、その週・月内に読むことができます。私はこのうち週刊誌は4誌、月刊誌は5誌必ずダウンロードしています。サピエが登場する前には、とても考えられなかった状況です。ただ、読書に費やせる時間があまりにも少なく、週刊誌ではメインの記事と決めているコラム、月刊誌では興味を持った記事しか読めません。他の雑誌も読みたいと思うことが度々ですが、とても対応しきれない状況です。  この他ですと、この10年では自立支援室の新設と、川崎市視覚障害者情報文化センターの管理委託を受けたことが印象に残っています。前者は、これまで全国の視覚障害者をサービスの対象にしていた当館が、初めて東京都内の視覚障害者に焦点を当てた事業です。後者は、川崎市が指定管理者を募集した事業に応募し、運営を委託されました。市内の視覚障害者が対象ですので、こちらも地域に根ざしたサービスです。双方のサービスが当館の今後にどんな影響を及ぼすのか見極める必要があると考えています。 目次 発刊にあたって   1.情報提供事業における電子化の加速  1ページ  (1)読書が困難な人たちの世界を大きく変えた電子図書館「サピエ」  1ページ  (2)電子書籍製作室  12ページ   2.利用者ニーズの多様化への対応  17ページ  (1)情報提供−図書提供サービスにおける変革−  17ページ  (2)情報製作事業−製作対象の拡充−  21ページ  (3)用具販売事業  33ページ  〈3.11 東日本大震災〉  41ページ   3.新たな事業の開始  43ページ  (1)自立支援事業  43ページ  (2)指定管理事業  45ページ  (3)ふれる博物館  49ページ  (4)文化資料室  54ページ   4.多様な広報活動と支援の広がり  57ページ  (1)インターネットとSNS  57ページ  (2)本間一夫生誕百年記念事業  58ページ  (3)イベント  60ページ  (4)広がる支援の輪  65ページ   5.海外支援事業の継続と成果  71ページ  (1)池田輝子ICT奨学金事業  71ページ  (2)アジア盲人図書館協力事業  72ページ  (3)北京の盲文図書館との姉妹館締結  72ページ   6.施設と業務組織の充実  73ページ  (1)施設の改修  73ページ  (2)業務組織  73ページ   付録  79ページ   編集後記  89ページ   *表紙は、2015年12月に創立者・本間一夫(ほんまかずお)の生誕百年を記念して本館南側に植樹した「春めき」という品種の桜です。南足柄市の農家・古屋富雄(ふるやとみお)さんにご寄贈いただいた桜を、東京都立農芸高等学校の皆さんに植えていただきました。 《1ページ》 1.情報提供事業における電子化の加速 (1)読書が困難な人たちの世界を大きく変えた電子図書館「サピエ」 @ サピエ誕生の背景  2009年度に、サピエ図書館の前身である「ないーぶネット」と、財団法人(現・公益財団法人)石橋財団の助成により当館と社会福祉法人日本ライトハウス情報文化センターの共同事業として運営していた「びぶりおネット」(点字・録音図書ネットワーク配信システム)の統合を含む「視覚障害者情報提供ネットワークシステム整備事業」という新しい事業が立ち上がることになり、厚生労働省から当館に4億3千万円の補正予算がおりました。特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会(以下、全視情協)と協力してシステムの開発を行ない、2010年4月、視覚障害者情報総合ネットワーク「サピエ」が正式に運用開始することとなりました。   写真:サピエ トップページ 〔写真、終わり〕 A サピエの概要  サピエは、大きく4つのシステム(機能)に分けられます。「ないーぶネット」と「びぶりおネット」の2つのシステムを統合し、点字・録音図書等の所蔵検索とコンテンツのダウンロードができる「サピエ図書館」、サピエの個人・施設利用会員や施設単位の利用登録者を管理する「会員情報管理システム」、各地域でなければ入手が困難な情報や、視覚障害者関連の全国的な情報をタイムリーに提供する「地域生活情報」、図書製作関連業務が円滑に行なえるよう、図書製作管理機能・読み方調べ機能等を有した「図書製作支援システム」です。開発・運用開始時は、当館がサピエ図書館の開発を担当し、地域生活情報や図書製作支援システムは全視情協が担当しました。また、会員情報管理システムについては、サピエ図書館との連携性が最も強いため、当館と全視情協のサピエ事務局担当者とでお互いに開発要件を出しながら開発しました。 B サピエ図書館機能概要 《2ページ》  詳細な開発仕様は当館が担当し、直接のシステム開発は、前身である「ないーぶネット」の改修や、全国の点字図書館の貸出出納業務の電算化に貢献した「N-LINK図書管理システム」を開発した実績を評価して、株式会社サン・データセンターにお願いしました。サピエ図書館は、個人会員用と施設会員用で、それぞれページレイアウトが異なりますが、いずれも開発にあたっては、視覚障害当事者が実際にPC画面に表示される文字情報を音声で読み上げる機能を使って検証しています。以下にサピエ図書館について機能概要を説明します。 ・サピエ図書館  サピエ施設会員である点字図書館や公共図書館、貸出業務を行なうボランティア団体が所有する点字・録音図書等の所蔵資料の検索ができ、個人会員はネットワークを活用した貸出依頼(オンラインリクエスト)を出すことができます。   写真:サピエ図書館 個人会員用トップページ 〔写真、終わり〕 ・ダウンロード可能なコンテンツの種類が増加  サピエ図書館では、前身の「ないーぶネット」が点字データしか扱えなかったのと異なり、世界標準の障害者向けデジタル録音図書規格であるデイジー(DAISY:Digital Accessible Information System)データの配信ができるようになりました。  このデイジーデータには、音声データをコンテンツとする音声デイジー図書と、階層化されたテキストデータを合成音声で読み上げるテキストデイジー図書、画像データ・テキストデータ・音声データを持ち、同期させて再生することもできるマルチメディアデイジー図書の3種がありますが、すべてのデイジーデータを配信できるようになりました。テキストデイジー図書には、短期間で製作できるというメリットがあり、マルチメディアデイジー図書には、視覚障害以外の読書困難な利用者が使えるというメリットがあります。 《3ページ》 ・国立国会図書館との連携によりさらに拡大したコンテンツ  2014年1月から、国立国会図書館が「視覚障害者等用データ送信サービス」を開始しました。国立国会図書館自身が学術文献録音図書として製作したデータに加え、公共図書館等が製作したデータを国立国会図書館が収集して、利用会員に配信するサービスで、サピエ図書館で取り扱っていないテキストデータ等も配信しているのが特徴です。  サピエ図書館では、2014年6月より、国立国会図書館のシステムとの連携を実践し、サピエ会員がサピエ図書館にログイン状態のまま、国立国会図書館の配信データのタイトルも検索し、データをダウンロードすることができるようになりました。その際に、利用できるデータは点字データ、音声デイジーデータ、テキストデイジーデータ、マルチメディアデイジーデータに絞っています。 ・携帯電話での利用 サピエモバイルデイジー館  サピエ図書館の運用開始時は、現在のようにスマートフォンが普及していなかったため、携帯電話でもサピエ図書館を利用できるよう開発したのが「サピエモバイルデイジー館」です。ストリーミングができない、点字データ・テキストデイジーデータ・マルチメディアデイジーデータがダウンロードできない、検索やダウンロードに時間がかかる、iモード対応の携帯電話に限定される等、利用には制約がありましたが、「持ち運びができる」という点で、一定の需要があるサービスです。   写真:携帯電話 サピエモバイルデイジー館 〔写真、終わり〕 ・デイジーオンラインサービス  サピエ図書館はWindowsパソコンを使用する前提で開発されました。しかし、2011年9月よりサービスを開始した「デイジーオンラインサービス」という機能を使えば、パソコンがなくても、対応するデイジー再生機とWi-Fi環境で、サピエ図書館にアクセスして利用することができるようになりました。このデイジーオンラインサービスでは、利用者が自ら検索し、該当タイトルをダウンロードして自分の本棚に格納し、必要に応じて本棚から出して読書をすることができます。また、雑誌のような定期刊行物は、定期配信登録をすれば、最新号のデータが登録されるのと同時に新着完成情報が届き、そのままダウンロードして自分の本棚に格納することができます。  このデイジーオンラインサービスは、サピエ図書館に登場して数年で、パソコン利用を上回ることとなり、2019年度の利用実績では、パソコンの2倍近い利用がありました。《4ページ》シナノケンシ株式会社が開発・販売しているデイジー再生機「プレクストークPTR3」や「リンクポケット」、有限会社サイパックが開発・販売しているiOSアプリ「ボイスオブデイジー」が登場し、「いつでも」「どこでも」利用できるようになったため、多くの利用者に受け入れられているのだと思います。   写真:リンクポケット 写真:ボイスオブデイジーの再生画面 〔写真、終わり〕 ・Web図書館システム  コンピュータを導入する以前、各点字図書館等は、本を検索する際に目録カードをめくって探し、利用者に紹介していました。しかし、当館では、1990年代後半から電算化した点字図書館システムを独自に開発・導入しており、そのノウハウを基に、1999年度の国の補正予算において、サピエ図書館の前身である「ないーぶネット」のインターネット化と同時に、N-LINK図書管理システムを開発しました。このシステムにより、各点字図書館は「ないーぶネット」との連携で書誌データや点字データのアップロードができるだけでなく、日常の貸出出納業務ができるようになりました。N-LINK図書管理システムの導入によって、各点字図書館の利用者サービスは大きく向上しました。しかし、このシステムは、OSの更新に左右されてしまうこと、新たな資料種別を管理しきれない等の限界がありました。  そのため、開発された後継システムが「Web図書館」です。サピエ図書館と一体化したシステムとなっており、日常の貸出出納業務をより効率化できるようオンラインリクエスト機能と貸出・予約処理が連動し、Web図書館導入館同士であれば、施設職員は他館にある該当タイトルの在庫や貸出・予約状況が確認できるようになっています。また、会員情報管理システムと連携がとれており、サピエを経由した会員申請(オンラインサインアップ)があった場合、ボタンひとつでWeb図書館に利用者情報を取り込み、申請内容を確認後、サピエ事務局に申請送信を簡単にできるようになりました。   写真:Web図書館のトップページ 〔写真、終わり〕   《5ページ》 ・Web図書館導入に際しての当館の役割  当館では、全国の点字図書館のWeb図書館導入を支援するため、「導入3年計画」を立案し、機能概要や操作、データ移行作業手順などを施設単位で学んでいただく研修会を開催してきました。また、データ移行時や日々の問い合わせにサポート対応をしています。さらに、これまで貸出出納業務を電算化していなかった点字図書館の新たな導入希望や、導入3年計画以降に、導入を希望する施設に対する個別導入サポート対応もしてきました。その甲斐あって、2020年度時点で68団体が、このシステムを導入しています。 C サピエ図書館の実績  2010年度から2019年度までのサピエの実績を、9から11ページに掲載した各種統計の推移を基に説明します。 ・サピエ会員数の推移  「ないーぶネット」時代には約6,100人の個人会員が利用していましたが、コンテンツを直接利用できるのは点字データだけでした。しかし、デイジーデータがダウンロード利用できるようになったため、この10年間で倍以上の会員増となりました。なお、サピエ図書館を利用するにあたり、視覚障害者を「個人A会員」、視覚障害以外の読書困難な発達障害者、学習障害者、識字障害者、肢体不自由者等を「個人B会員」と分類しています。「1.サピエ会員数とサピエ図書館目録タイトル数の推移」の統計では、「個人総会員数」、「個人総会員の中のB会員数」、「施設会員数」をそれぞれ累計で表しています。また、施設会員の中では特に障害者サービスを開始した公共図書館の新たな参加が増加しています。 ・サピエ図書館で公開されている目録タイトル数(書誌件数)の推移  サピエ図書館では、点字データ・デイジーデータのすべてをダウンロードできるわけではなく、CD等の媒体での貸出のみで利用できるタイトルが数多くあります。《6ページ》このようなタイトルは目録データのみが登録されています。「1.サピエ会員数とサピエ図書館目録タイトル数の推移」の統計では、サピエ図書館にアップロードされている目録タイトル数の推移を累計で表しています。こちらも10年間で倍以上のタイトル数が公開されていることがわかります。 ・点字データ タイトル数の推移  「ないーぶネット」時代から、点字データのダウンロードができたため、サピエ図書館の運用開始時点ですでに一定のタイトル数や利用がありましたが、2019年度では利用が下がっていることがわかります。これはデイジーデータが利用できるようになった影響が大きくあると考えられます。一方で点字データの利用も変化してきました。従来の点字用紙にプリントアウトして触読するという方法以外に、ピンディスプレイによる触読や、スクリーンリーダーによる合成音声で読み上げて読書するという方法で利用されています。点字データの場合、基本的に校正された仮名表記であるため、合成音声で読み上げてもテキストデイジーのような誤読がありませんので、本の内容によってそのような利用がされているようです。 ・音声デイジーデータ タイトル数の推移  サピエ図書館が、「ないーぶネット」と「びぶりおネット」の2つのネットワークシステムを統合したものだということは、本章冒頭でふれました。この「びぶりおネット」は当館と日本ライトハウス情報文化センターが共同で行なってきた録音図書(デイジーデータ)を中心としたコンテンツの配信システムでした。そのため、サピエ図書館の運用開始当初は、この2つの団体が製作したタイトルが多数を占めており、結果として当館製作タイトルの利用実績は高いものでした。その後、各点字図書館やボランティア団体が、すでに製作済みのコンテンツと共に、新たに製作・完成したコンテンツを順次、サピエ図書館にアップロードするようになり、全体のタイトル数が増えてきました。  特筆すべき点は、全体のタイトル数が増えてもなお、当館製作コンテンツのダウンロード利用が年々高くなってきているという点です。これは日頃の選書の確かさや朗読ボランティアの方々の質の高さや熱心さが利用者に理解されているということではないかと思います。 ・テキストデイジーデータ タイトル数の推移  テキストデイジーは、製作原本の文字データ・画像データをデイジー編集した図書です。視覚に障害がある人が、実際に読む際には再生する機器やソフトに搭載された合成音声エンジンを使用して読み上げることとなりますので、読み上げの精度や品質は、その環境に依存します。《7ページ》利点としては非常に短期間で製作できるコンテンツなので、「とにかく情報を早く入手したい」と考えている利用者にとっては有効なコンテンツです。年々利用の増加がみられるのがよくわかります。 ・マルチメディアデイジーデータ タイトル数の推移  マルチメディアデイジーは、画像データ・テキストデータ・音声データを同期させてデイジー編集したものです。読み上げている箇所をハイライト表示することができ、発達障害者や学習障害者にも有効といわれています。一方、製作に時間とコスト、そして高度な技術が求められるため、各点字図書館等もなかなか製作できていないのが現状です。2020年度時点では主に厚生労働省委託図書として、当館と日本ライトハウス情報文化センターが製作しています。他には、限られた一部の点字図書館等が製作しているというのが現状です。 D サピエシステムの管理 ・当館が担うサピエシステム管理者  2020年度現在、サピエの維持・運営を行なう上で、当館がサピエシステム管理者としてサピエ図書館/Web図書館、会員情報管理、デイジーオンラインに関わるシステムやサーバの維持管理を担当しています。これに関わる経費については、厚生労働省から毎年予算化されている補助金を使って対応しています。その他、サピエの運営と図書製作支援、地域生活情報に関わるシステムやサーバの管理を全視情協が担当しており、当館と全視情協が協力し、サピエ全体の運営・維持管理を行なうことで、現在のサピエが存在しています。 ・サーバ機能の強化  2015年度に、サピエ図書館は存続の危機を迎えました。サピエは、厚生労働省が毎年予算化する補助金により、システムやサーバの保守費等を賄っています。しかし、毎年の補助金だけでは、サーバ等の機器を新たに更新する費用を賄うことができず、また、サーバ更新費用を別途予算化していただくのも難しい状況でした。そのため、1年間の延長保守費だけを予算化していただき、その間に全視情協と協議して、サピエ図書館および会員情報管理と、それ以外のサービス(地域生活情報と図書製作支援)を分けて管理することにしました。そして、株式会社日立システムズの協力により最新のクラウド技術を使い、仕様を詳細に詰めた結果、毎年予算化される補助金の中でサピエ図書館のシステムだけは賄える見通しが立ち、翌年の4月後半から5月中旬にかけて機器更新を行なうことができました。これ以降、サピエ図書館以外のサービスについては、システムや機器を含め、全視情協が担当しています。 《8ページ》  その後、2019年度には、これまでのサピエの利用実績やニーズに加え、「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(通称:読書バリアフリー法)を踏まえた新たな利用者層増加の受け入れにも対応するためのサーバ増強対応の必要性に基づき、「サピエ図書館サーバ増強計画」として、目録サーバの規模拡大を含めた更新、ならびに会員情報管理サーバやデイジーオンラインサーバの増強、ネットワーク構成内にある仮想サーバの拡張を厚生労働省に予算化していただき、5年先、現在の倍の新たな会員の利用増加に対応可能なサーバの強化を行なうことができました。 ・サピエ図書館のこれからの進化  サピエ図書館は、視覚障害者に限らず、世の中の読書が困難な人たちのため、継続・進化していますし、今後もそうすべきシステムだと思います。全視情協では現在、AIスピーカーによるサピエ図書館利用の可能性を模索し、関係者による検証を開始したようです。また、9ページからの資料種別毎の統計でもわかるように、パソコン利用を、デイジーオンラインによる利用が大きく上回る状況があり、この勢いはしばらく続くだろうと思います。サピエのシステム管理担当者として描く「将来のサピエ図書館」とは、サピエ会員となった個人利用者は、サピエ図書館にログインすれば、世の中のすべての欲しい情報が入手できるようになることです。そのためには、まだまだ情報の収集や整理をする必要があります。また、国立国会図書館や、その他のネットワークシステムとも、より強い連携がとれるよう情報共有していかなくてはなりません。1つのシステム、サーバにだけ負荷を強いるようなものではなく、分散型ではあるけれども、1つの窓口からすべての資料が利用できるようになる日が必ず来るという強い想いを持ちながら、これからも努力していきたいと思っています。 《9ページ》 サピエ図書館の実績 表:1.サピエ会員数とサピエ図書館登録目録タイトル数の推移(累計) 〔製作者注:以下、「年度」、「個人総会員数」、「内個人B会員数」、「施設会員数」、「サピエ図書館登録目録タイトル数」の順に記載。注、終わり〕 2010年度 8,403 43 222 510,293 2011年度 9,964 94 237 564,532 2012年度 11,205 130 261 631,130 2013年度 12,476 174 271 803,052 2014年度 13,446 226 291 964,873 2015年度 14,380 278 312 995,189 2016年度 15,206 312 343 1,044,642 2017年度 16,015 352 368 1,072,812 2018年度 16,942 403 382 1,104,014 2019年度 17,832 469 393 1,144,108   表:2.サピエ図書館 点字データタイトル数と利用数の推移 〔製作者注:以下、「年度」、「タイトル数(累計)」、「年間アップロード数」、「当館製作 年間アップロード数」、「年間ダウンロード数」、「当館製作 年間ダウンロード数」の順に記載。注、終わり〕 2010年度 124,073 11,176 272 708,944 33,515 2011年度 134,582 11,072 285 689,543 30,417 2012年度 133,798 11,339 192 741,827 31,499 2013年度 137,644 11,163 213 710,756 26,124 2014年度 165,720 11,010 165 709,115 25,263 2015年度 176,636 11,559 201 738,638 24,675 2016年度 187,416 11,458 149 655,759 21,995 2017年度 198,141 11,430 153 750,839 25,990 2018年度 209,858 12,178 174 530,505 19,955 2019年度 220,915 11,503 157 595,736 19,434   《10ページ》   表:3.サピエ図書館 音声デイジーデータタイトル数と利用数の推移 〔製作者注:以下、「年度」、「タイトル数(累計)」、「年間アップロード数」、「当館製作 年間アップロード数」、「年間ダウンロード数」、「当館製作 年間ダウンロード数」、「年間ダウンロード数内訳 PC」、「年間ダウンロード数内訳 デイジーオンライン」、「年間ダウンロード数内訳 携帯」の順に記載。注、終わり〕 2010年度 22,505 11,162 2,213 359,655 102,643 335,186 0 24,469 2011年度 33,798 12,943 2,359 1,042,057 244,623 732,825 258,795 50,437 2012年度 42,795 17,479 6,393 1,490,929 311,589 629,910 805,818 55,201 2013年度 50,591 9,644 837 2,102,975 376,630 807,034 1,238,839 57,102 2014年度 61,849 9,850 665 2,490,930 403,289 950,735 1,488,523 51,672 2015年度 66,053 9,860 612 2,822,488 396,187 1,024,079 1,751,299 47,110 2016年度 72,556 9,430 592 2,741,839 372,798 1,050,517 1,648,917 42,405 2017年度 80,846 10,612 581 2,985,250 393,929 1,083,535 1,863,192 38,523 2018年度 88,526 9,663 526 3,178,853 410,033 1,111,100 2,035,163 32,590 2019年度 95,503 9,008 522 3,424,551 464,051 1,129,732 2,270,756 24,063   表:4.テキストデイジーデータタイトル数と利用数の推移 〔製作者注:以下、「年度」、「タイトル数(累計)」、「年間アップロード数」、「当館製作 年間アップロード数」、「年間ダウンロード数」、「当館製作 年間ダウンロード数」、「年間ダウンロード数内訳 PC」、「年間ダウンロード数内訳 デイジーオンライン」の順に記載。注、終わり〕 2010年度 46 47 3 1,483 57 1,483 0 2011年度 92 56 27 2,596 880 1,897 699 2012年度 196 105 24 5,154 914 2,922 2,232 2013年度 534 354 139 29,158 11,149 15,607 13,551 2014年度 1,491 1,006 455 108,958 57,568 59,748 49,210 2015年度 2,773 1,330 514 161,177 84,589 87,373 73,804 2016年度 4,078 1,370 430 170,020 72,733 91,633 78,387 2017年度 5,541 1,489 452 203,729 72,186 106,995 96,734 2018年度 7,155 1,654 516 254,493 90,886 117,325 137,168 2019年度 8,949 1,670 333 278,257 64,254 119,477 158,780   《11ページ》   表:5.マルチメディアデイジータイトル数と利用数の推移 〔製作者注:以下、「年度」、「タイトル数(累計)」、「年間アップロード数」、「当館製作 年間アップロード数」、「年間ダウンロード数」、「当館製作 年間ダウンロード数」、「年間ダウンロード数内訳 PC」、「年間ダウンロード数内訳 デイジーオンライン」の順に記載。注、終わり〕 2011年度 10 14 0 448 0 312 136 2012年度 22 23 1 946 68 287 659 2013年度 41 23 2 2,004 70 664 1,340 2014年度 63 23 14 1,947 874 943 1,005 2015年度 94 38 16 3,122 1,122 1,332 1,790 2016年度 141 63 16 4,940 1,770 1,837 3,103 2017年度 185 54 17 3,527 1,187 1,440 2,087 2018年度 240 61 7 5,993 1,426 2,171 3,822 2019年度 282 56 10 6,192 759 1,998 4,194   表:6.当館の利用登録者数・メモリーカードへのダウンロード提供数・貸出数の推移 〔製作者注:以下、「年度」、「当館利用登録者数(累計) 個人」、「当館利用登録者数(累計) 団体」、「当館利用登録者数(累計) 合計」、「カードへのDL提供数(タイトル数/年間) 点字」、「カードへのDL提供数(タイトル数/年間) 録音(デイジー)」、「貸出数(タイトル数/年間) 点字」、「貸出数(タイトル数/年間) 録音(CD)」、「貸出数(タイトル数/年間) 録音(カセット)」、「貸出・DL提供合計(タイトル数/年間) 点字」、「貸出・DL提供合計(タイトル数/年間) 録音」の順に記載。注、終わり〕 2010年度 12,661 698 13,359 〔空欄〕 2,120 9,941 225,953 15,639 9,941 243,712 2011年度 13,032 710 13,742 〔空欄〕 17,920 9,696 222,613 1,942 9,696 242,475 2012年度 12,809 702 13,511 367 49,346 9,403 221,986 1,216 9,770 272,548 2013年度 12,498 601 13,099 928 54,697 9,439 225,503 715 10,367 280,915 2014年度 12,821 606 13,427 1,186 61,881 9,006 220,340 778 10,192 282,999 2015年度 12,464 598 13,062 1,265 52,976 8,207 214,887 735 9,472 268,598 2016年度 11,731 592 12,323 1,126 71,690 7,980 202,672 528 9,106 274,890 2017年度 11,908 585 12,493 998 68,666 7,678 197,253 368 8,676 266,287 2018年度 12,085 592 12,677 1,321 85,048 7,264 187,790 449 8,585 273,287 2019年度 12,386 596 12,982 1,154 104,553 6,671 184,745 257 7,825 289,555 〔表、終わり〕   《12ページ》 (2)電子書籍製作室 @ 電子書籍準備室の設置  「電子書籍元年」といわれた2010年以降、日本でも電子書籍の出版・販売が広がりを見せはじめました。しかし、紙書籍を画像化しただけで読み上げに対応しないものが多いのが実状でした。  2010年にはまた、1月に改正著作権法が施行されて、点字図書館等が著作権者の許諾なしに複製・提供できるメディアが大幅に拡大されました。この年、当館では、録音製作課と図書情報課プライベートサービス担当者が、シナノケンシのデイジー製作ソフトウェア「PLEXTALK Producer」(プレクストーク・プロデューサー)を用いてテキストデイジーの試作を始めました。  一方、教育分野では、2008年の「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(通称:教科書バリアフリー法)施行以降、財団法人(現・公益財団法人)日本障害者リハビリテーション協会を中心にマルチメディアデイジー教科書を製作する取り組みが広がりつつありました。  マルチメディアデイジーは読み間違いの許されない教科書や教材に適しています。しかし、音声デイジーやテキストデイジーに比べて製作工程が多く、2010年当時は使い勝手のよい製作ツールもなかったため、当館ではマルチメディアデイジーの製作を手がけてはいませんでした。  こうした情勢を受けて、当館では2011年4月に「電子書籍の利用と製作に関する検討プロジェクト」を発足させました。このプロジェクトは館長以下関係部署の部課長・職員等で構成し、2013年3月まで20回にわたって議論を重ねました。その間、製作に関する課題を検証するため、2012年4月「電子書籍準備室」が録音製作課内に設置されました。  立ち上げ当初の電子書籍準備室では、兼務の点字製作課員と共に、2011年度から当館で開発を始めたデイジー製作ソフトウェア「ChattyInfty」〔注〕(チャティ・インフティ)を用いて合成音声のマルチメディアデイジーを試作しました。また、点字図書の新しい製作方法として、紙の原本をOCRソフトでスキャンして得たテキストデータを自動点訳ソフトに処理させる方式に取り組みました。 〔注:本章で扱うChattyInftyは、すべてChattyInfty3 AI-Talk版 注、終わり〕   写真:ChattyInfty 〔写真、終わり〕 A 電子書籍製作室の発足  電子書籍準備室での検証結果を踏まえ、「電子書籍の利用と製作に関する検討プロジェクト」は2013年3月に提言をまとめました。これを受けて、電子書籍準備室は2013年4月より「電子書籍製作室」と名を改め、プロジェクトの提案を実施する録音製作課内の常設グループとなりました。発足当初は、分館アイ・ブライトビル2階で各種製作に取り組んでいましたが、2016年10月に本館4階へ移転、録音製作課スタッフとの協働体制を強めました。 《13ページ》  なお、この移転を契機として、本館4階の録音製作課内に広いスペースを占めていた辞書・参考文献コーナーを大幅に縮小することにしました。これは、インターネットや電子辞書といった検索性の高い調査ツールの活用が容易になったことも背景にあります。  「電子書籍の利用と製作に関する検討プロジェクト」は、2013年4月に「電子書籍推進プロジェクト」と改称し、各種情報交換と利用推進のための議論を継続していましたが、2016年度末をもって解散しました。 B 助成・委託事業 B-1.マルチメディアデイジー関連  製作システムの開発や製作人材の養成のために、以下の助成や委託をいただき、有効な成果を残すことができました。 ・音声合成を用いたマルチメディアデイジー製作ソフトウェアChattyInftyの開発  2011年度から2013年度石橋財団助成事業として実施。   ・マルチメディアデイジー教科書製作者の養成  2012年度から2013年度財団法人(現・一般財団法人)日本児童教育振興財団助成事業として実施。   ・ChattyInftyオンライン化のための研究  2013年度公益財団法人三菱財団助成事業として実施。   ・マルチメディアデイジーに点字情報を含めるための研究  2014年度日本郵便株式会社年賀寄附金配分事業として実施。 《14ページ》 ・ChattyInftyのWebアプリケーション化  2014年度から2015年度文部科学省委託事業「障害のある児童生徒の学習上の支援機器等教材開発事業」として実施し、「ChattyInfty Online」(チャティ・インフティ・オンライン)を開発。   ・ChattyInfty Onlineの普及  2016年度に公益財団法人一ツ橋綜合財団の助成で、同システムによる製作実務の講習会を各地で開催(以降、同財団からはシステムの維持運営にかかる費用の助成が継続。2019年3月には安定運用のためシステムを国立大学法人筑波技術大学に移管)。   ・一般書のマルチメディアデイジー化  2014年度以降は、厚生労働省委託録音図書として、また2014年度から2018年度は一般財団法人日本宝くじ協会助成事業として、一般書のマルチメディアデイジー図書の製作も手がけています。これらの図書は、朗読音声データを使い、音声デイジー図書のようにも読書を楽しむことができます。 B-2.テキストデイジー関連 ・アクセシブルな電子書籍製作実験プロジェクト  2013年10月、日本アイ・ビー・エム株式会社、国立大学法人東京大学大学院情報理工学系研究科廣瀬(ひろせ)・谷川(たにがわ)研究室、メディアドライブ株式会社との協力により開始しました。  紙書籍のスキャン画像からデジタルテキストを変換する場合、文字等の誤認識は避けられません。そのデータをWebに置いて、不特定多数の参加ボランティアで修正作業を行なうシステムです。このシステムは、2015年度から国立国会図書館に移管し、2017年度からは他施設の参加も募っています。   ・一般書のテキストデイジー化  2014年度から一ツ橋綜合財団助成事業として実施。製作費の助成が得られたことにより、当館では年間400から500タイトルのテキストデイジーを製作できるようになりました。   ・テキストデイジー・テキストデータのプライベート製作  2015年度から2016年度一般財団法人日本メイスン財団助成事業として実施。東京都在住・在勤・在学者に対しては、2018年度から東京都委託事業として実施。アクセシブルな電子書籍製作実験プロジェクトに寄せられたリクエスト図書や、当館に直接持ち込まれた個人依頼の図書・資料を、テキストデイジー化あるいはテキストデータ化して依頼者に提供しています。 《15ページ》   図:アクセシブルな電子書籍製作実験プロジェクトの流れ コミュニティサイト(みんなでデイジー):障害当事者→読みたい図書のテキストDAISY化リクエスト・原本提供→日本点字図書館:Webからのリクエスト図書・自館選書→OCR処理→国立国会図書館:クラウドソーシング型図書校正システム コミュニティサイト(みんなでデイジー):製作支援ボランティア→図書校正協力→国立国会図書館:クラウドソーシング型図書校正システム→日本点字図書館:自館のデータをダウン→テキストDAISY編集→配信サーバ→リクエスト者に配信 日本点字図書館→自館のデータをダウン→テキストDAISY編集→サピエ図書館:登録 他機関:自機関のリクエスト図書・自館選書→OCR処理→国立国会図書館:クラウドソーシング型図書校正システム→自機関のデータをダウン→他機関:テキストDAISY編集、テキストデータ編集etc.→他機関の障害者ユーザ 他機関→テキストDAISY編集、テキストデータ編集etc.→サピエ図書館:登録(サピエ加盟施設のみ) 〔図、終わり〕 《17ページ》 2.利用者ニーズの多様化への対応 (1)情報提供−図書提供サービスにおける変革−  2010年度からの10年間ほど、読書困難者の読書環境、情報提供手段・方法が大きく変化したことは過去にありませんでした。1999年に当館がデイジー図書の貸出を開始してから約10年後、サピエ図書館が出現したことにより、録音図書の利用や提供方法の変化と進化が加速することとなりました。 @ デイジーデータの配信開始によるサピエ図書館の「直接利用」  サピエ図書館が2010年4月より運用開始したことで、利用者自身や点字図書館等は、デイジーデータのコンテンツをダウンロードして直接利用をすることができるようになりました。このことは情報入手と提供の迅速化に大きく貢献したと言えるでしょう。当館はこの10年間、デイジー図書やサピエ図書館の普及や利用促進のため、大きく2つの対応をしてきました。  まず、当館が開講していたパソコン教室でサピエ図書館の操作体験と操作講習を実施しました。開講当時はWindowsパソコン利用が前提でしたが、デイジーオンラインサービスが開始され、iPhoneなどでサピエ図書館にアクセスして使用できる「ボイスオブデイジー」というアプリケーションソフトが有限会社サイパックより開発・販売されたことでiPhone利用のニーズが急速に高まりました。パソコン教室は、IT教室に名称を変更して実施するようになり、現在に至ります。現在では受講生の90%はiPhoneの講習を希望しています。  次に、2009年4月、当館がカセットテープで製作・提供してきた複数の雑誌を音声デイジー形式で製作し、月刊誌「にってんデイジーマガジン」と名付けた1枚のCDに収録して提供するサービスを始めました。CDは返却不要で、毎月約7,000人強(発行開始当時)に提供しました。同時にデイジー再生機の貸出を行ない、電話や来館で操作説明をし、デイジー図書の魅力を伝えながら利用促進を行ないました。   写真:月刊デイジー雑誌「にってんデイジーマガジン」 〔写真、終わり〕   《18ページ》 A サピエ図書館の「間接利用」ダウンロードサービスの開始  当館には、2020年度時点で約12,000人の個人利用者が登録しており、その約65%がサピエの個人会員となっています。これは他の点字図書館における比率と比較すると、かなり突出した値のようです。しかし、残りの約35%は、サピエ会員になっている訳でもパソコン等を使った読書環境がある訳でもありません。また、サピエの個人会員になっている人の中でも、自身でインターネットにアクセスする直接利用が困難な人もいます。  このような、サピエ図書館を直接利用できない個人利用者に対し、各点字図書館は他の所蔵館から希望のタイトルを取り寄せたり、サピエ図書館からのデータのダウンロードを代行してCD等で貸出を行なったりしています。しかし、所蔵館からの取り寄せの場合、人気のある図書は長期間の予約待ちとなり、ダウンロードしてCDにコピーする作業にも時間を要してしまいます。そんな時「もう少し、サピエ図書館をうまく利用できないものか」と考えてできた新しいサービスが、「ダウンロードサービス」です。  きっかけは携帯型でSDカード対応のデイジー再生機プレクストークPTP1がシナノケンシ株式会社より開発・販売されたことでした。発売当時のメーカーの思惑は、サピエ図書館の直接利用のためのセカンド機的な位置付けだったようですが、このプレクストークPTP1は胸のポケットに入れられるほど小型で携帯性に優れた再生機でしたので、SDカードの取り扱いにさえ慣れてしまえば、利用が広がるのではないか、これを使えば、間接的なサピエ図書館の利用をもっと進めてもらえるのではないかと強く思いました。  2009年、独立行政法人福祉医療機構に「高齢の視覚障害者を中心としたデイジー録音図書利用促進事業」として助成申請し、SDカード対応の卓上型再生機と携帯型再生機合わせて50台を新たに導入しました。この機器を都内近郊のパソコンやデイジーの利用経験のない視覚障害者52名に貸与し、SDカードを使った利用検証を行なった結果、検証参加者ほぼ全員が操作をマスターすることができました。そこで、2011年度から正式にダウンロードサービスの運用を開始しました。  SDカードはCDよりも大容量ですので、1枚に複数タイトルのデータを多量に収録することができます。《19ページ》サピエ図書館に希望するタイトルがあれば、どんなに人気がある図書でも、予約待ちなしで提供することが可能となりました。  このダウンロードサービスに使用するSDカード等のメモリーカードは利用者自身にご用意していただきます。メモリーカードは繰り返し使用できるため、図書館側の作業も「配架している書庫から出す・戻す」という工程を排することができます。別の業務を平行して行なえますので、業務の効率化もできました。   写真:独立行政法人福祉医療機構助成事業で開発したコンテンツダウンロード専用ソフト「ダウンローダーGS」を使いサピエ図書館のコンテンツをダウンロードするスタッフ 〔写真、終わり〕 B ダウンロードサービスの進化形 セレクトパックサービス  ダウンロードサービスは運用開始早々から、サピエ図書館を直接利用できない人や、サピエ会員になっていても使いこなせない人たちを順調に取り込んで、利用が増加してきました。  しかし、利用サービス担当者としては、「大量に収録できるメモリーカードの利点を活用した新たなサービスはできないか」と、さらに検討を進めました。  長期休館前の人気図書への貸出依頼集中の改善、読みたい本を目録からでなく晴眼者同様に本屋でページをめくって選ぶようなサービスの提供、レファレンス業務からカード利用に繋がる運用方法など、こうしたアイデアを検討した結果、2011年12月から新たに開始したサービスが、ダウンロードサービスの進化形である「にってんセレクトパック」サービスです。  このサービスは、長期休館となる年末年始および夏期休館の前後の時期に実施してきましたが、2019年はサピエが改修により長期停止する時期や、当館の外壁工事のための改修を理由とした休館などの時期にもきめ細かく実施しました。  テーマ選定にあたっては、利用者のニーズやタイムリーさを考慮しながら、スタッフが複数テーマを決定。テーマに沿ったタイトルをサピエ図書館から25から30点選び、データをダウンロードして1枚のメモリーカードに収録します。このメモリーカードをマスターカードとして、利用者からのリクエストに応じてコピーする方法をとっています。《20ページ》スタッフが毎回サピエ図書館からデータをダウンロードするよりも迅速にお送りすることができるようになりました。  このサービスはサピエ図書館の間接的利用者だけでなく、直接的利用者も巻き込めています。また、大量のタイトルを収録したカードでも、タイトル選択は簡単なため、「ちょっとした町の小さな本屋さん」の好きなコーナーで本を選ぶという感覚が持てるのではないかと思います。  2019年度ではこのセレクトパックサービスの大きな効果もあり、年間で過去最大の10万タイトル以上の提供をすることができました。  現在では当館だけでなく、メモリーカードによるダウンロードサービスやセレクトパックサービスは各点字図書館でも実施し始めて人気を博しているようです。  利用者全員がサピエ図書館を直接利用できるようになることが最も理想となるのでしょうが、読書環境や利用者の置かれている状況等、様々です。どんな方法があってもいいのではないか、直接的に使えなくても、多少時間を要したとしても、その利用者が望んでいる本が手元に届いて読書ができればいいのではないか、他にも読書方法はあるし、それをサポートするのが我々、利用サービスに携わるスタッフの使命ではないかと強く思います。   表:セレクトパックの利用状況(2014年冬から2020年夏) 〔製作者注:以下、「順位」、「利用人数」、「セレクトパックタイトル」の順に記載。注、終わり〕 1 3,170 サピエベストリーダーセレクト 2014年冬から2020年夏(通算) 2 243 にってん寄席セレクト 2018年冬 3 215 平成30年間で売れた本はこれだ!セレクト 2019年夏 4 209 ボーナスパック〜「声」のセレクト 2016年夏 5 203 痛快時代劇セレクト 2019年冬 6 197 この本はこんな賞をとっていた!セレクト 2017年夏 〔表、終わり〕   写真:セレクトパックのコピー作業をしているスタッフ 〔写真、終わり〕 C 図書の製作選定の迅速化へ「即攻選書」  サピエ図書館を使用する点字図書館等が新しい図書の製作を決める際、「重複製作」にならないよう事前に検索し、製作していないことを確認した上で製作着手情報をサピエ図書館に登録しています。これが共通の基本ルールとなっています。  サピエ図書館は運用開始後、すぐに軌道に乗り、点字図書館等はデータのダウンロードや貸出依頼であるオンラインリクエスト利用が増えただけでなく、製作着手が全体的に早くなる傾向が出始めました。  当館では「選書委員会」という組織で製作候補の図書の選定をしていますが、各製作部門(点字製作課、録音製作課)は日常、利用者からの声を直接聞くことが少なく、ニーズを把握することが難しいため、選書体制の一部を改めることにしました。利用者ニーズをより迅速に製作に反映させる目的で、2015年度途中より、利用者の声を直接聞くサービス部門(図書情報課)の選書委員に製作決定をする権限の一部を与え、文学書を中心とした即時選書を開始しました。《21ページ》発売前の図書も含め、あらゆるルートから新しい情報をキャッチし、迅速に製作決定し、製作着手情報をサピエ図書館に登録するようにしました。さらに、この方法で製作決定された点字図書については、テキストデータを活用して製作のスピードアップを図り、製作着手から利用者に提供するまでの期間も短縮できるようになりました。  この即攻選書では毎年20タイトル前後のタイトルを決定しています。当館の貸出利用ランキングや、サピエ図書館でのダウンロード利用ランキングでも上位を占めるタイトルが多く、大きな成果をあげています。 D 点字利用と読書に関するアンケート調査報告書  2013年10月、直近5年間で点字図書の利用がある600人を対象にアンケートを実施しました。これは点字利用者の読書意識や点字利用の実態を把握し、当館の図書製作に活用する調査です。また、点字図書や点字が今後どのような使い方、使われ方が良好なコミュニケーションツールとして展開できるかを探る手掛かりにすることと、利用者に点字を使うことによるメリットを聞き、点字普及の材料とすることを目的としたものです。ここでは誌面の都合上、アンケート結果や考察などを掲載することが難しいため割愛させていただきますが、報告書としてまとめ、当館のホームページからダウンロードすることができます。  日本点字図書館「点字利用と読書に関するアンケート調査の結果について」 https://www.nittento.or.jp/news/tenji_enquete.html (2)情報製作事業−製作対象の拡充−  2010年からの約10年間における図書製作の大きな特徴と言えば、まずは、デイジー形式による録音図書製作の普及と多様化ということになるでしょう。  当館では、2007年1月にカセットテープによる録音図書サービスの終了を宣言し、テープ図書の製作を順次終了、最終的には貸出サービスを2011年3月に終了させました。その間、音声デイジー図書の普及に努めてきましたが、2010年にスタートしたサピエ図書館という大きな起爆剤を得て、デイジー図書の利用が一気に加速した10年でした。  多様化という点では、テキストデイジー、マルチメディアデイジーという新たなデイジー形式の図書の製作が始まったことも特筆に値します。《22ページ》特に、テキストデイジー図書は年間500冊近い数を製作し、サピエ図書館における知名度を一気に獲得しました。合成音声には、朗読者さんの都合に縛られないという良さがあり、あえて合成音声を使った音声デイジー図書も登場しました。  さらに、従来の音声デイジー図書という形式の中にあっても、映像の音源と解説コンテンツを一体化したシネマ・デイジー、テレビ・デイジーも登場し、デイジー図書を活気づかせました。  このようなデイジー図書の興隆は、2000年からの10年間で進めてきた取り組み(びぶりおネット、音声解説CDなど)が開花したものと言えるかもしれません。90周年に向かう次の10年間においては、電子書籍とも呼ばれるテキストデイジー、マルチメディアデイジー図書の一層の普及に期待したいところです。  録音図書が、デジタル化を契機とした大きな盛りあがりをみせる一方、点字図書はすでにデジタル化が浸透したところから始まりました。この10年間の当館の取り組みは、触覚回帰と言えるものかもしれません。自費出版の点字図書として発行した『いろんなかたちをさわってみよう』『ふれる世界の名画集』は、いずれもアナログな触覚にこだわった、当館オリジナルの編集方針が際立ちます。他にも、わが国における点図作成ソフトとして定番ソフトウェアである「エーデル」で作られたデータを、サピエ図書館の標準のデータ形式であるBESに変換するソフト「BESE」の開発も、当館の持つ触図の経験と蓄積あっての業績と言えるでしょう。  次項より、製作の変化を部署ごとに詳しくお伝えしていきます。 @ にってんデイジーマガジンのコンテンツ紹介  「にってんデイジーマガジン」は、音声による総合雑誌で、毎月CD版として約6,300部を配布、データ版としてサピエ図書館を通じて配信を行なっています。  デイジー図書の貸出開始から10年を経た2009年4月に創刊、それまでテープ雑誌として発行していた複数の録音雑誌を統合したものです。  掲載しているコンテンツは、テープ雑誌から継続しているものは、「にってんボイス」(新刊録音図書の案内)、「ブックウェーブ」(視覚障害者や書籍・雑誌の情報)、「文藝春秋」(抜粋から全文朗読版に)、「ホームライフ」(暮らしに役立つ情報)、「医学研究」(健康や三療に関する情報。「新医学」と「東洋医学研究」を統合)、「ニュー用具タイムズ」(当館用具事業課からの販売商品情報)。  にってんデイジーマガジン発刊後に、新たに加わったものとして「イングリッシュポケット」(英会話学習)や「新刊ぞくぞく!テキストデイジー情報〜!」(新刊テキストデイジー図書の紹介)、「Oh my book」(当館図書情報課からの図書紹介)があります。《23ページ》これらに当館が受注製作しているソニー株式会社や株式会社資生堂のコンテンツ、内閣府の音声広報などが加わり多彩な魅力を広げています。  また、単発のコンテンツとして、当館の行事での講演や、チャリティ映画会やコンサートのご案内を出演者の声とともに提供する等、柔軟なスタイルでの掲載もしています。  2019年、発刊10年を迎えたことを機に初めて読者アンケートを実施しました。インターネットやお電話など224名から得た回答を基にコンテンツの改編を行ないました。2020年度からは要望の多かったスマートフォンの使い方、読者からの声の紹介、地域情報をコンテンツ内に盛り込んでいます。  「ブックウェーブ」には公益財団法人鉄道弘済会から、「ホームライフ」「医学研究」には公益財団法人JKAから、それぞれ製作費のご助成をいただいています。 《24ページ》 にってんデイジーマガジン定期掲載タイトル一覧 にってんボイス 掲載期間 2009年4月から現在   表:ホームライフ 〔製作者注:以下、「タイトル」、「担当・提供者等(敬称略)」、「掲載期間」の順に記載。注、終わり〕 手作りの味 松井純子 2012年3月まで 新製品紹介 小沢繁之 2018年3月まで 生活ホットメモ 永澤正子 2010年3月まで 生活ホットメモ 石本幸子 2013年2月まで 生活ホットメモ 山本美枝子 2010年7月から2014年3月 生活ホットメモ 新井好子 2016年3月まで 生活ホットメモ 曽田さわ子 2019年1月まで 緑のアンテナ−ひとときをこの人と 増渕路子 2016年3月まで トークエッセイ 間室道子 2020年3月まで 日々の暮らしに 美月めぐみ 2016年1月まで 日々の暮らしに 中山利恵子、澤田理絵 現在まで 日々の暮らしに 西田梓 2016年4月から現在 「エリコのおしゃべり」・「お便り紹介」・「新聞ひろいよみ」 田中絵里子 2013年3月まで 手編みサロン 石田信子、曽田さわ子(2011年5月) 2012年2月まで わくわく用具タイム 人見共 現在まで 奥秋曜子の旬レシピ 奥秋曜子 2012年4月から現在 花王くらしの中のサイエンス・季節のお便り 花王株式会社 2012年7月から現在 民話を楽しむ 柳田国男『日本の昔話』(角川文庫)、松谷みよ子『読んであげたいおはなし 松谷みよ子の民話』(ちくま文庫)、大川悦生『子どもに聞かせる 日本の民話』、稲田浩二・稲田和子『日本昔話百選 改訂新版』(三省堂)より抜粋 2013年7月から2019年4月 森佑太の音いろいろ 増渕路子 2016年4月から2020年3月 森佑太の音いろいろ 森佑太 2016年4月から現在 映画鑑賞で世界を広げよう 平塚千穂子 2012年4月から2016年3月 映画で世界を広げよう 平塚千穂子 2016年4月から現在 ファッション・イヤー 鈴木由絵子 2018年7月から現在 新製品紹介 中里聡 2018年4月から現在 ザ・プロダクト Shin 2018年5月から2020年3月 モバイル アップデート Shin 2020年7月から現在 パラリンピック・インタビュー 選手をゲストに迎えて 2019年6月から2020年3月 楽しさ倍増!パラリンピック・ミニガイド 各種ホームページ、書籍より抜粋 2020年5月から2020年9月 三遊亭京楽のにってん寄席 三遊亭京楽 2019年5月から2020年1月 こんなおもちゃ知ってる?共遊玩具ってなあに? 一般社団法人日本玩具協会共遊玩具推進部会 2019年6月から現在 くらしのアイディア手帳 各種雑誌より抜粋 2020年4月から現在 レターdeトーク 水出智津、今野浩美 2020年4月から現在 アクセシビリティコラム 山賀信行 2020年5月から現在 わたしの街からこんにちは 上西祐子、山内なか 2020年6月から現在   《25ページ》   表:ブックウェーブ 〔製作者注:以下、「タイトル」、「担当・提供者等(敬称略)」、「掲載期間」の順に記載。注、終わり〕 人・話題の窓 月替わりゲスト 現在まで 今月の一冊 大波加弘 2015年12月まで 今月の一冊 稲垣暁子 2016年5月から2019年12月 今月の一冊 坂巻克巳 現在まで 新刊セレクト 「新刊ニュース」(株式会社トーハン)より抜粋 2020年3月まで 閲覧室 こんな本ご存知ですか 大内進 現在まで 閲覧室 本のポケット 各種ホームページより抜粋 2020年1月まで 閲覧室 最近の賞より 各種ホームページより抜粋 2019年2月まで 民話を楽しむ 光吉夏弥『ネコ・猫・ねこ −世界中のネコの昔ばなし−』(平凡社) 2019年5月から2020年2月 トークエッセイ 間室道子 2020年4月から現在 月刊サピエジャーナル 各種ホームページより抜粋 2020年4月から現在 世界一あたたかい人生レシピ 「ビッグイシュー日本版」(ビッグイシュー日本)より抜粋 2020年4月から現在   文藝春秋 掲載期間 2009年4月から現在 《26ページ》   表:医学研究 〔製作者注:以下、「タイトル」、「担当・提供者等(敬称略)」、「掲載期間」の順に記載。注、終わり〕 特集記事 「医道の日本」(株式会社医道の日本社)より抜粋 2009年4月から2020年8月 特集記事 「週刊あはきワールド」(ヒューマンワールド刊)より抜粋 2020年9月から現在 今月のピックアップ 「日経メディカルOnline」(日経BP)より抜粋 2020年4月から現在 ジェネラリストのための内科診断リファレンス〜エビデンスに基づく究極の診断学をめざして〜 酒見栄太監修、上田剛士著(医学書院) 2017年5月から現在 鍼灸マッサージ師のためのスポーツ東洋療法 福林徹監修、東洋療法学校協会スポーツ東洋療法研究委員会編著(医道の日本社) 2019年4月から現在 連載「臨床中医診断学」 野村博行 2009年4月から2010年12月 連載「鍼灸学釈難」 野村博行 2011年1月から2014年4月 臨床講座・そのときどきに・座談会 吉川恵士 2009年4月から2011年3月 臨床講座・そのときどきに・座談会 坂井友実 2009年4月から2020年3月 臨床講座・そのときどきに・座談会 栗原勝美 2011年5月から2020年3月 臨床講座・そのときどきに・座談会 山口智、粕谷大智 2009年4月から現在 臨床講座・そのときどきに・座談会 水出靖 2020年4月から現在 臨床講座・そのときどきに・座談会 前田智洋 2020年5月から現在   表:ニュー用具タイムズ 〔製作者注:以下、「タイトル」、「担当・提供者等(敬称略)」、「掲載期間」の順に記載。注、終わり〕 ニュー用具タイムズ 須之内震治、用具事業課 2018年7月まで ニュー用具タイムズ 石橋迪子、用具事業課 2018年12月から現在 三菱UD らく楽アシストコーナー、三菱電機からの情報紹介 三菱電機株式会社 2017年2月から現在 こんなおもちゃ知ってる?共遊玩具ってなあに? 一般社団法人日本玩具協会共遊玩具推進部会 2016年12月から2019年5月 《27ページ》   表:単独タイトル 〔製作者注:以下、「タイトル」、「担当・提供者等(敬称略)」、「掲載期間」の順に記載。注、終わり〕 館長日記 岩上義則 2009年5月から2011年3月 館長対談 小野俊己、ゲスト 2011年5月から2013年3月 世界を読む オフィス・トクヒロ(製作) 2009年5月から2010年4月 イングリッシュ・ポケット 水野由紀子、録音製作課 2011年4月から現在 イングリッシュ・ポケット 宮本徹 2012年4月から2019年4月 おしゃれなひととき 株式会社資生堂 2012年12月から現在 SONY 聞くカタログ ソニー株式会社 現在まで にってんセレクトパックサービスのご案内 図書情報課 2013年7月から現在 にってんセレクトパック 目録 図書情報課 2012年8月から現在 レファレンスサービス選・本のとびら 図書情報課 2013年8月から現在 Oh my book 図書情報課 2014年1月から現在 新刊ぞくぞく!テキストデイジー情報〜! 録音製作課 2018年7月から現在 イルカのおはなし文庫 株式会社ニッポン放送 2016年7月から2020年6月 明日への声 内閣府大臣官房政府広報室 2020年7月から現在 ※にってんデイジーマガジン発刊以前のテープ雑誌時代から続くタイトルは開始年を空欄としました。 〔表、終わり〕 A びぶりお工房の役割拡大・新システムへの更新  「びぶりお工房」(視覚障害者用録音図書製作ネットワークシステム)とは、インターネットとパソコンを活用して録音図書を製作する仕組みで、2005年から運用を開始しました。製作する本ごとに朗読者、校正者、管理者の役割を担うボランティア3者が1組となって担当しますが、読み終わった部分から順次校正を進められることで一冊読了と同時に完成する、画期的な方法を実現。「新刊書が平積みで売られているうちに、録音図書として利用者に!」をモットーとし、現在に至っています。開始してしばらくは、スピード重視の方針に加え、製作を進める上でのボランティア同士のやりとりがパソコン上のみとなることから、きめ細かな確認が必要となる図表や写真等の多い図書は避け、新書やエッセイ、ボリュームの少ない小説が主な製作対象でした。  しかし、年々ボランティアの方々の技術が向上しているおかげで、現在ではジャンルを問わなくなり、年間の録音図書製作数の半数以上は、びぶりお工房製作によるものが占めています。特に、人気作家の新作や期限厳守の委託・助成図書の製作に、持ち味のスピード感が発揮されています。  一方、開始以来10年以上、システムの改修をせずにきていたため、新しいブラウザへの対応が課題でしたが、2019年、元職員であった故塩見佑子(しおみゆうこ)氏のご遺贈により、システムの改修を実施することができました。実行可能な主要ブラウザの種類を増やすことに加え、約40項目の機能の改修と改善がなされ、作業の能率アップに大きく寄与してくれています。 《28ページ》 B シネマ・デイジーとテレビ・デイジーの製作の経緯と実績 ・シネマ・デイジー  当館では、2005年4月から財団法人(現・公益財団法人)石橋財団の助成により音声解説同期DVD再生ソフトウェア「ガイドDVD」の開発および「DVD映画音声解説CD」の製作・貸出を通じて、視覚障害者の映画鑑賞を支援してきました。音声解説CDは、その後、財団法人東京メソニック協会(現・一般財団法人日本メイスン財団)や朝日生命保険相互会社からの助成金を得て、2016年4月までで127タイトルを製作しました。  この音声解説CDは、解説音声だけが入ったもので、当館以外で借りるか、もしくは購入したDVDとセットで視聴する必要がありました。この方式に対し、最初から映画本編の音声もセットで提供することが望まれていましたが、2009年以前には、著作権の関係で提供することができませんでした。2010年1月の著作権法の改正により、映画や放送番組の解説音声を作成することについて、その映画や放送番組に収録された音声とともに録音物にする行為に道が開けました。解説コンテンツも増えた2013年6月、社会福祉法人日本ライトハウス情報文化センターが発表したのに続き、同年8月に満を持して発表したのが「シネマ・デイジー」です。このコンテンツは大評判となり、一時はサピエのダウンロードランキングの1位から10位までをすべてシネマ・デイジーが独占した時期もありました。  当館で18タイトルからスタートしたシネマ・デイジーは、2020年8月現在534(うち当館製作121)タイトル、製作館も2施設から15施設と広がりを見せています。  なお、当館はこの事業の当初から音声解説コンテンツの製作は、外部団体に依頼しており、館内での製作を進めてきませんでした。しかし、2019年8月に初めて館内スタッフだけで製作した『めぐり逢えたら』を発表し、2020年には『連続テレビ小説 おしん 総集編』の製作を進めるなど、自主製作にも取り組み始めています。  同時に近年は、一般財団法人日本宝くじ協会からの助成金により、バリアフリー映画鑑賞推進団体シティ・ライツに製作を委託したシネマ・デイジーも年3タイトル程度発表しています。  また、シネマ・デイジーの人気の高まりと共に音声解説CDの貸出実績は落ちてきました。さらに「ガイドDVD」のOS対応が、Windows7に進めなかったことから、2018年3月をもって、ソフトウェアの公開を停止。同時に体験上映会という位置づけであった、毎月の音声解説付き映画上映会も終了することになりました。 ・テレビ・デイジー  シネマ・デイジーは、情景描写などをオリジナルの文章で作成するため、製作にあたっては、これまでにないノウハウが必要でしたし、時間もかかりました。《29ページ》そこで、もともと音声解説が入りコンテンツ数が豊富な「テレビ番組」をデイジー図書にできないかとの検討が、2014年頃から始まりました。まずは日本放送協会(以下、NHK)へコンテンツ提供の交渉を開始。元NHK番組制作局チーフディレクターで、当法人評議員の迫田朋子(さこたともこ)氏にも応援いただいた結果、著作権法第37条第3項の対象者のみに提供することの許可を得ることができました。ただし、音源の提供は得られないため、放送時に録画したものが音源となります。そのための機材は、一般財団法人日本児童教育振興財団よりご支援いただきました。放送音源しか使えないため、録画のミスや緊急速報の報知音等が入っていないかを確認した後、音源データをデイジー編集します。  コンテンツや発表方針がまとまった2016年10月から、NHKの音声解説付きテレビ番組をデイジー編集した「テレビ・デイジー」の貸出を開始しました。提供第一弾は、女優・黒柳徹子(くろやなぎてつこ)氏のエッセイを基にした『トットてれび』、盲ろうの少女をめぐる『奇跡の人』など4タイトルでした。開始年度の実績は、受け入れ13タイトルに対して、利用約1,000回と音声デイジー図書としてはシネマ・デイジーを凌ぐ人気を得ました。  2020年8月現在のタイトル数は178。番組もドラマのみならず「日本の話芸」「プロフェッショナル仕事の流儀」等多岐にわたっています。新規タイトルの選定は録音製作課と図書情報課が行ない、通常の発表とは別に、毎月「にってんデイジーマガジン」で告知していますが、マガジン発行後すぐに貸出希望の電話が鳴る状況です。サピエ図書館には配信されない、当館独自のコンテンツとして高い人気を誇り、2020年8月から目録の販売も始まりました。 C テキストデイジーとマルチメディアデイジーの実績  テキストデイジーは、2010年から製作を開始しました。点訳や朗読のような専門性を問われるスキルを必要としないことと、2013年から共同校正システムを導入したことにより、製作タイトルが一気に増加しました。2013年度以降は毎年500タイトル以上を目標に製作に取り組んでいます。500タイトルの内、400タイトルは当館で選書しています。選書の基準は、その時話題になっている社会問題や実用書、注目されている人物の新作です。残りの100タイトルは利用者からのリクエストで、資格試験の問題集といった学習教材や自己啓発本、専門書が多くを占めます。点訳や朗読に比べ圧倒的なスピードで提供できる点を活かし、利用者ニーズの高い情報を届けています。製作には公益財団法人一ツ橋綜合財団からご助成をいただいています。  マルチメディアデイジーは、2011年から製作を開始しました。音声、テキスト、画像を同期できる特性を活かし、2014年度からは厚生労働省委託図書として画像を多く含む美術文庫を積極的に製作しています。《30ページ》また、マルチメディアデイジーは、視覚に障害は無くとも活字を読むことが困難な人達にとって有効なことから、毎年、公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会から算数や数学の教科書2から3学年分を受託製作しています。その他、外部企業や団体から定期刊行物や啓発パンフレットの製作を受注しています。 D 点字製作課受注の実績  1975年から続く、財団法人日本テレビ系列愛の小鳩事業団(現・公益財団法人日本テレビ小鳩文化事業団)の製作による点字カレンダーは、45年を超えても毎年多くの希望をいただいています。40年の節目には、当館の3階ロビー壁面にて、1回目から最新まで全てのカレンダーを展示しました。この年から各月の写真の内容を説明する解説文が付くようになりました。  1977年創刊の財団法人(現・一般財団法人)NHKサービスセンターの助成による『NHKウイークリーガイド』では、誌面の充実を図るため2013年に1200号で編集基準を見直しました。2019年には1500号を記念して、読者の方への楽しい読み物として特別号を発行しました。長く続く業務は、より良い内容になるよう改善を行なっています。  その他、自治体広報誌に加え、ラジオ番組表、航空機安全のしおり、飲食店メニューなど、各企業より年間1,000件近い点字版製作を引き受けています。近年の傾向として、各種試験・会議資料の点字製作、普通校に通う視覚障害生徒のための点字教科書の製作といったものがあります。点字サイン業務では、駅構内やトイレの触知案内図、ホームドア設置に伴う点字案内シート、2014年と2019年の消費税率引き上げ時には点字運賃表等、特に鉄道関係の監修業務を多く受託しました。  その他の当館ならではの実績として、各種墨字書籍への点字データや触図の提供などがあります。本文点字データの製作では、「てんじつきさわるえほん」シリーズの中でも、『ぐりとぐら』(福音館書店 2013)、『ぞうくんのさんぽ』(福音館書店 2016)、『じゃあじゃあびりびり』(偕成社 2016)、『あらしのよるに』(講談社 2017)があります。また、エンボス式触図ページを印刷しているのが、『さわっておどろく!』(岩波書店 2012)、『点字はじめの一歩』シリーズ1から3(汐文社 2018)です。『知のスイッチ』(岩波書店 2019)では、カバーに印刷された触図デザインの協力もしました。  点字への社会的関心・理解が見受けられるようになってきたものの、まだまだ誤解も多く、点字製作を引き受ける団体として当館の役割の重要性が高まっていると感じます。 E 点字製作課の自費出版図書 ・『中途視覚障害者のための点字入門』  2010年に『中途視覚障害者のための点字入門』を可愛らしいデザインに一新した新装版として発行してから10年が経ちました。その間、『日本点字表記法 2018年版』の発売があった2019年以外、この本は常に販売部数が年間1位でした。《31ページ》貸出部門でも点字図書の1位ということですから、点字の入門書の購入需要は非常に高く、中途視覚障害者の点字に関する関心の高さがうかがえます。 ・『いろんなかたちをさわってみよう』  2011年には、見開きで全13種の図形が飛び出す『いろんなかたちをさわってみよう』を発行しました。この本は、算数で学ぶ立方体や三角錐などの立体図形について、その形を触って楽しく覚えることができる本です。当時、国立大学法人筑波大学附属視覚特別支援学校に勤務されていた高村明良(たかむらあきよし)氏が授業で使っていた折り畳み図形を冊子にするというアイデアを形にしたもので、高村氏に図形を提供していた理数専門点訳会シグマの全面的な協力を得て冊子化しました。 ・『ふれる世界の名画集』  2012年には、世界の名画について触れて学ぶ解説書『ふれる世界の名画集』を発行しました。ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」など、西洋の代表的な絵画12種を浮き彫りのように半立体化し、解説を付けたもので、大活字による墨字を併記した点字図書です。この本は、彫刻家の柳澤飛鳥(やなぎさわあすか)氏が絵画を立体化したカードを当館に持ち込まれ、それを冊子化するという企画でした。柳澤氏に立体絵画の製作、美術史に造詣の深い真下弥生(ましもやよい)氏に解説テキストの執筆を担当いただき、この分野の第一人者である大内進(おおうちすすむ)氏と半田(はんだ)こづえ氏の監修をいただきました。製作にあたっては、社団法人(現・一般社団法人)全日本冠婚葬祭互助協会に助成いただくことができ、全国の視覚特別支援学校、点字図書館および美術館等に配布しました。反響は大きく、テレビ等にも取りあげていただきました。2013年には、読者からの要望の多かった解説を朗読したCDが付いたセットも販売しています。 《32ページ》  『いろんなかたちをさわってみよう』と『ふれる世界の名画集』は、文部科学省の教科用図書に入れていただいた結果、視覚特別支援学校等から副教材としての注文が継続しています。さらに、個人読者や図書館等からの注文も続き、発行から現在まで需要が減ることなく、お求めいただいています。  図書としての販売ではありませんが、用具事業課と一緒に開発した商品に「点字付き五色百人一首」があります。遊び方ガイドは「五色百人一首」のルールを元に、百星(ひゃくぼし)の会(点字付き五色百人一首の同好会)が2年にわたり実践してきたものを当館が文章化しました。そして、取り札は株式会社東京教育技術研究所(TOSS)発行のものを使用し、古文の点訳ルールに則った点字をタックペーパーに印刷して貼りました。 F 『点訳のしおり』新版発行  2019年6月に『点訳のしおり』(新版)を発行しました。この冊子は、当館創立者の本間一夫(ほんまかずお)が当館の点字図書製作活動を支えてくださる点訳奉仕者のために点訳テキストとして『點譯(てんやく)の栞(しおり)』を発行(1942年)したのが始まりです。その後、幾度かの改訂を経ているものの、点字の基本的なルールを“わかりやすく具体的に説明する”─この編集方針は現在も変えていません。  『点訳のしおり』(新版)も『日本点字表記法 2018年版』に準拠しながら、語例などを時代に合わせた内容になるよう見直しをはかり、整理しました。さらに、ホームページやEメールのアドレス、点字の手紙や名刺の書き方なども加えています。  また、対象者を当館の点訳奉仕者にとどめず、点訳グループや学校教育など、より多くの方にもご活用いただける内容にしたことは大きな変更点かもしれません。冊子体はA5サイズとコンパクトな形のままになっています。 G BESEの開発  点訳作業の中でも、特に専門性の高い点訳として触図があります。その製作方法として、近年、ボランティアを中心に急速に広がってきたのが、藤野稔寛(ふじのとしひろ)氏が開発・無償提供するソフト「エーデル」を使った方法です。《33ページ》この「エーデル」を使った点図は、サピエ等で登録される点字文書(BES)とは異なる独自のファイル形式です。サピエ図書館では、当初禁止していたエーデルデータの登録を、2001年度からエーデルデータを別に登録することで許容する方針になっていましたが、別々に点字印刷した図版ページを本文ページに差し込むというような作業はトラブルの原因となりやすく、ファイルの統合が望まれていました。この課題を解決するために、当館では、2015年度、藤野稔寛氏に「エーデル」の扱う「edl」「ebk」「hebk」形式ファイルを、「点字編集システム」の扱う「bes」形式に変換するためのユーティリティソフトの開発を依頼し、日本児童教育振興財団から製作費の助成をいただきました。2015年度中に開発は完了しましたが、サピエ図書館への登録を巡って、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会の「登録点字文書製作基準」の改訂と足並みを揃えるため、2016年12月1日から、当館ホームページで利用申し込みを受け付けることとしました。2019年度末までに、120件を超える申し込みに対応しています。 (3)用具販売事業 @ わくわく用具ショップの拡充  2010年7月1日にインターネットショッピングサイト「わくわく用具ショップ」がオープンしました。それまでのホームページでは、全体の事業紹介の中に用具のページがあり、その中で商品を写真付きで紹介することまではできていました。しかし、新しいホームページは、当館全体のホームページから独立して検索性もよくなり、商品の詳細情報から、そのまま注文ができるようになったうえ、クレジットカード決済までが可能になりました。通販サイトの開設は、買い物の利便性を向上させただけでなく、お客様自らが商品を選び、買い物を楽しむという効果を生みました。  こうして、2010年度のスタート時には会員数584名、注文件数1,916件、注文商品数7,404点だったショッピングサイトは、2019年度には会員数5,337名、注文件数5,201件、注文商品数30,902点までに拡充することになりました。  この間、2013年には、1997年に独自開発した販売管理システムを民間のソフトウェアメーカーが提供するシステムに移行し、ショッピングサイトと連携させたことにより大幅に業務の効率化を図ることができました。  また、さらにユーザーの間口を広げるため、一般のオンラインモールへの出店もしています。2012年度よりAmazonへ出店し、N632小型点字器などのオリジナル商品を販売しています。2015年度より「わくわく用具ショップヤフー店」をスタートしましたが、2019年度より休止しています。 《34ページ》 A 情報発信の強化 ・メールマガジン「わくわく用具名人」の配信  2010年7月10日に創刊し、2020年12月12日286号まで継続しています。   ・Facebookでの広報  2013年9月26日から2019年11月2日まで投稿。2020年11月現在、1,192人にフォローされています。   ・ニュー用具タイムズ  新商品を中心とした取扱商品や、その使い方までを紹介する音声による広報ツールです。  1999年10月から現在まで継続しています。パーソナリティーは創刊から2018年7月までは須之内震治(すのうちしんじ)氏、2018年12月からは石橋迪子(いしばしみちこ)氏にお願いしており、わくわく用具ショップ担当者が商品を使ってみた感想を交えながら良さや特徴を伝えています。お客様に「わくわく用具ショップ」を身近に感じていただくきっかけとなりました。   ・ホームライフ「わくわく用具タイム」  ホームライフリスナーのために「わくわく用具ショップ」取扱商品をご紹介するコーナーで、2004年4月から2020年現在まで継続しています。パーソナリティーは人見共(ひとみきょう)氏で、わくわく用具ショップ担当者と当事者スタッフでお届けする楽しいコーナーです。   ・「わくわく用具ショップカタログ」  長らく、モノクロの文字だけの商品カタログを作成していましたが、2014年10月から広告を得て、写真入り、オールカラーのカタログを作るようになりました。改訂毎に全国の福祉事務所とロービジョン外来をもつ医療機関へ配布し、日常生活用具候補品の啓発にも努めています。近年は、巻末に「見えない、見えにくいとお困りの方の相談窓口」として、全国の訓練施設の連絡先をリスト化しています。 ・機器メーカーと連携し体験会を実施  毎月、デイジー図書録音再生機や電子点字機器の基本的な使い方や個別ニーズに沿った指導が受けられる無料の体験会を実施しています。なお、2020年は、新型コロナウイルス感染拡大予防のため中止しました。   ・医療機関等との連携  国立障害者リハビリテーションセンター主催で、毎年2回程度行なわれる「視覚障害者用補装具適合判定医師研修会」において「わくわく用具ショップ」の商品を紹介しています。 《35ページ》  また、自立支援室と協力し、井上眼科クリニックや東京女子医科大学病院に出向き、ロービジョングッズや便利グッズを紹介しています。 B 主な取扱商品 ・デイジー図書録音再生機 プレクストークリンクポケット・PTN3・PTR3  2011年はサピエ図書館の新サービス「デイジーオンライン」が始まった年となりました。サピエ図書館へアクセスする手段はこれまでパソコンと携帯電話でしたが、この新サービスが導入されることによって、パソコンを使用せずに専用の機器だけでサピエ図書館にアクセスできるようになりました。  その1号機がプレクストークリンクポケットでした。プレクストークリンクポケットは2011年9月に発売開始となり、手のひらに収まる小型機器でありながら単体で無線LANに接続し、サピエ図書館のコンテンツをストリーミング再生、またはダウンロードできる機器として注目をあつめました。  その後プレクストークシリーズは、再生専用機種(PTN3)とデイジーオンラインを搭載した録音再生機(PTR3)の2種が発売されました。 ・わくわく用具ショップオリジナル防災セット  2011年3月、東日本大震災が発生しました。この被害の甚大さは今も各地に深い爪痕を残し、多くの視覚障害当事者へも深い悲しみや辛い生活を強いる出来事となりました。この年以降、「わくわく用具ショップ」では防災用品を積極的に扱うことになりました。  オリジナル防災セットのコンセプトは、混乱している避難所や断水・停電しているご自宅において、発災後の3日間をできるだけストレスを減らし、しのぐための道具を厳選することでした。情報の獲得と慣れない場所での単独行動が難しい視覚障害者特有の状況を考慮し、様々な災害報告書や被災地で視覚障害者支援を行なった人達の話を参考に、必要な商品を厳選し、当事者ご自身が容易に扱えるものを集めました。  セット内容は、「わくわく用具ショップ」が独自に製作した「視覚障害者用防災メッシュベスト」、障害者手帳や常用薬や処方箋のコピーなどが入れておける「首かけ情報ポーチ」、「携帯用音声電波時計」、スイッチやつまみがはっきりしている「手回し充電非常用ラジオ」など全34種です。これらをすべてリュックサックに収納し、避難所へ持ち出すことができるようにしました。  音声取扱説明書には、同梱商品の使用方法のほか、災害に備えるアドバイスや避難所で必要な支援を受けるための情報として、社会福祉法人日本盲人会連合製作の『視覚障害者のための防災・避難マニュアル』を掲載しました。《36ページ》この視覚障害者に特化した防災セットは、一部の地域で日常生活用具の給付対象商品となりました。 ・ハトメジャー・カシメジャー  150cmヒモ状のメジャーに、1cm毎に金属の目盛りを付けました。金属の大小の丸い突起が付いているカシメジャー、金属の輪がついているハトメジャーの2種類でスタートし、その後カシメジャーは販売終了、現在はハトメジャーのみを販売しています。このオリジナル商品の加工作業は、販売開始当初より作業ボランティアのご協力に支えられています。 ・透明凸点シール  ものやスイッチを見分けるシールがほしいとの要望から商品化したのが「透明凸点シール」です。市販品から探し当てた中粒と大粒の2種類だけではことたりず、オリジナル開発したのが小粒と薄型です。  もともとシールを作っていたメーカーにご協力いただき、小粒は形状や質感がとても使いやすくなりました。また、携帯電話のボタンに貼りたいとの要望から生まれた薄型は、高さが低いながらもはっきりとした触覚があり、他に類似品がないこともあって、小粒は年間700点以上、薄型は年間500点以上の売り上げを継続するヒット商品になりました。 ・紙幣が見分けられる!簡単サ印(イン)ガイド  お札を見分ける紙幣見分け板に、書類にサインと捺印する際に便利なガイド枠をくり抜いたオリジナル商品です。もともとは、一万円札と五千円札と千円札の長さで種類を見分けられる単一機能のものでした。そこにサインと捺印ができる機能を追加して、さらに便利な商品となりました。紙幣をガイドに合わせやすくするために、ガイドの裏側にすべり止めを付けたことも工夫の一つでした。 《37ページ》 ・指先が出るやわらか手袋  毎年好評のオリジナル商品です。冬場来館されるお客様の手がとても冷たいことに気づいた職員が考案して商品化しました。両手の親指、人差し指、中指の先に縦のスリットがあり、手袋をはめたまま指先を出すことができるので、通勤・通学やお買物などの外出先で携帯電話やスマートフォン等を操作する時、点字を読む時など、様々なシーンで便利です。手袋製造が盛んな町・香川県東かがわ市の手袋メーカーに製作を依頼したオリジナル商品です。 ・子供用木製点筆  数種類の点筆を販売するなかで、児童の小さな手にフィットする点筆がありませんでした。以前より必要とされながら需要が少ないため、商品として特別に製作することができませんでした。  そこで、2015年度に三菱商事株式会社からいただいた指定寄付を基に、児童の成長に合わせた2種類の子供用点筆を開発・製作しました。材質は手にやさしい木製とし、全国63箇所の視覚特別支援学校に寄贈しました。(2020年8月に販売終了) ・ロービジョンマグカップ&プレート  ロービジョン者に使いやすい工夫がいっぱいのオリジナルマグカップとプレートをセラミック素材でモノづくりをするメーカーと共同開発しました。  市販のマグカップは白い磁器製が多く、持ち手の位置やマグカップのフチがわかりにくいというお悩みがロービジョン者のなかに多数ありました。  そこで、このマグカップの持ち手には絵柄をつけ、さらに内側にはクロスサインの絵柄を描き、そこを中間位置と決めて飲み物の量がわかりやすいように工夫しました。  また、プレートのフチにははっきりとした色で線を描き、テーブルとの境目をわかりやすくしています。 《38ページ》 ・ユニバーサル財布  ファスナーをあけると6つの部屋が扇型にひらくジャバラ式の財布です。お札を半分に折って収納することが可能です。部屋の仕切りにはそれぞれ1から4の凸点がついています。内側に2つ、外側に4つあるポケットは、柔らかい革を使用しているので出し入れしやすくなっています。もともとは株式会社大活字のオリジナル商品でしたが、すでに販売終了となっていたので、再販の了解を得てカラーバリエーションを増やして商品化したものです。 ・タッチパネル式電磁調理器専用カバー  近年、操作部がフラットなタッチパネルの増加が、様々な場面で視覚障害者に新たな不便さを生むことになりました。2012年以降、日常生活用具である音声式電磁調理器がタッチパネル式のみになり、これを使いやすくするために、フラットな電磁調理器の操作部に専用のオリジナルシールやカバーを作成し装着しました。  手で触れても反応しない部分に高さのあるシールやカバーを重ね、まず反応しない部分と操作部分の識別ができるようにしました。さらに、操作部分の手がかりになるようにシールやカバー本体に凸点や刻みを入れることで、それを頼りにゆっくりと位置を確認できるようになりました。  2020年、音声式の電磁調理器は生産終了となり、今後、この日常生活用具枠に該当する商品を探すことが課題となりました。 《39ページ》 主な新商品 2010年度 創立70周年記念風呂敷/ポケットトーク DA-207S/時計付き小型音声電卓(9902)/パームピーラー/計量スパイスストッカー/シリコン・カラフル エコラップ(3色セット)/真空保温調理器シャトルシェフ(点字版・音声版レシピ付き)/けんおんくん MC-174V 音声付体温計/牛革製二つ折り財布/カッチン(安全つめきり) 2011年度 リンクポケット/シグナルエイドV/ブレイルスタディーBS1/透明凸点シール(小粒)/手回し充電・非常用ラジオ/立体囲碁アイゴ(13路盤) 2012年度 視覚障害者用防災グッズ基本セット/視覚障害者用防災メッシュセット/非常用トイレケアバック/テレビが聞けるラジオ/透明凸点シール(薄型)/マイケーン 2013年度 ラジオサーバーポケットPJ−35/立体囲碁アイゴ(19路盤)/書見台/ルンバ視覚障害者モデル/軽量特大折りたたみ傘/奥秋曜子の電子レンジ鍋 2014年度 ブレイルメモスマート40/紙幣が見分けられる!簡単サ印ガイド/音声血圧計UA−1030T/カシメジャー・ハトメジャー/指先が出るやわらか手袋/いろポチ さわって色がわかるタグ 2015年度 おしゃべりテディ/おしゃべり熱中症計/拡大読書器クローバー3/クリッピーカップ/コインホーム/にじいろリーダー/日点ロゴマーク入り携帯靴べら/フィッシュグリルプレート/『不可能を可能に』/ホットイート/リニューアル版視覚障害者用防災メッシュベスト 2016年度 六兵衛茶碗/音声認識人形おしゃべりみーちゃん/携帯型拡大読書器ルビーHD7インチ/合ピタカップ/ザルバッとん/3ポケットがまぐち小銭入れ/ダッタカモ文明の謎/フラッシュハーフボール/ポケットトークDA208/ロービジョンマグカップ&プレート 2017年度 おでかけマスコット/GRUSボイス電波腕時計/クローバー10(拡大読書器)/スタンドポケット/立つタテ型ピーラー/なごみケーションにゃんこ/プレクストークPTN3、PTR3/マスキングテープ/ユニバーサル財布/ライオンのおしゃべり温湿度計/レンジグリルRG-HS1 2018年度 セガワケーン/キザキケーン/デレンダスーパーケーン/スライド式サポートケーン/蓄光テープ/コンパクト6HD(拡大読書器)/PTR3お楽しみ追加オプション/IHジャー炊飯器/点字にチャレンジ!バラエティセット/『日本点字表記法 2018年版』/『点訳のてびき 第4版』 2019年度 IH クッキングヒーター/ヴィゾルクスデジタル XL FHD(拡大読書器)/ブレイルセンスポラリス(音声・点字携帯情報端末)/UV カット折りたたみ傘/ボイスクッキングスケール/ソニーワンセグラジオ/ゴールボール体験用すず入りボール/『点訳のしおり 新版』 《40ページ》 C 防災イベントの実施  防災用品の販売と並行し、「視覚障害者と支援者のための防災イベント」を企画しました。視覚障害者が被災するとどんな困りごとがおきるのか、支援者が知っておくべきことは何か、準備として何をしておくべきか、このような要素を盛り込んだ体験型のイベントを開催しました。 ※2014年度以降は、川崎市視覚障害者情報文化センターと同時開催しました。 防災イベント 2012年度 内容 ・津波シェルター体験 ・避難所体験コーナー ・災害用伝言板体験セミナー ・防災用品の使い方説明と販売 2013年度 ・ガイドヘルプ体験 ・AED体験 ・参加者交流会(防災クイズなど) ・防災用品の販売 2014年度 ・ガイドヘルプ体験 ・AED体験 ・講演「情報障害者と防災」 ・防災用品の販売 2015年度 ・ガイドヘルプ体験 ・起震車とAED体験 ・講演「誰でも支援者になれる−防災運動会の取り組みを語る」 ・防災用品の販売 2016年度 ・ガイドヘルプ体験 ・起震車と応急手当体験 ・講演「震災の教訓は生きているか?」 ・防災用品の販売 2017年度 ・ガイドヘルプ体験 ・起震車とAED体験 ・講演「災害報道最前線から学ぶ、今すぐ役立つ防災知識」 ・防災用品の販売 D 被災地への支援  東日本大震災では社会福祉法人日本盲人福祉委員会に協力し、白杖や音声時計を被災者に提供しました。また、その後の天災で被災された利用者へは、必要に応じて避難所で必要になる点字器やメモ帳、防災用ラジオや音声体温計などを支援品としてお送りしました。 《41ページ》 〈3.11 東日本大震災〉 2011年3月11日金曜日、14時46分に東北地方太平洋沖地震が発生し、当館が位置する新宿区でも、震度5強を観測する激しい揺れに襲われました。 当日の対応  地震直後、まず館内の転倒・落下物、建物の損傷、けが人の有無を確認しました。幸いにもけが人もなく大きな被害もありませんでした。  鉄道各社が運転を停止し復旧の目処が立たない中、高田馬場駅周辺に職員を出し、帰宅の手段が無くなり困っている視覚障害者を館内に案内しました。夜通し玄関は開放し、入口の照明も点けて帰宅困難者を受け入れました。中には外出先から薙刀持参のまま避難に来られた当館朗読ボランティアもいらっしゃいました。徒歩で帰れそうな職員、ボランティアは同じ方面のグループで帰宅させ、来館していた筑波大学附属視覚特別支援学校の生徒さんは車で学校まで送り、それ以外、利用者も含め約60名は、多目的室、スタジオなどを仮眠室として一晩を明かしていただきました。また、近くに住む職員の自宅の炊飯器を借り、炊き出しも行ないました。  携帯電話・固定電話はつながりにくい状況にあり、館内にある1台の公衆電話は、館内の職員、ボランティアだけでなく通りがかりの方にも利用していただきました。用具販売の店頭では延長コードでコンセントを多数開放し、自由に携帯電話の充電に使っていただきました。 その後の対応  翌日の土曜日は休館とし、鉄道も再開したので、泊った人で帰宅できる人は帰宅させ、翌週から業務を再開しました。計画停電の対象地域ではなかったため、3月18日に実施予定であったチャリティ映画会を中止にした他は、事業は滞ることなく継続できましたが、郵便事情に鑑み、被害の大きい、宮城・福島・岩手3県への貸出は一時停止し、4月19日から再開しました。  当館の上記3県の利用者392人の安否確認を電話で行ないました。実際に電話連絡ができた方は375人でした。連絡がつかなかった方については日本障害フォーラム(JDF)の現地支援センターにお願いし、個別に連絡を取っていただきました。安全が確認された方は合計384人でした。 被災地への支援  日本盲人福祉委員会では視覚障害者支援対策本部を立ち上げ、被災地の情報の収集、視覚障害者の安否確認等を行なっていましたが、館長就任直後の小野俊己(おのとしみ)は4月16日夕方から19日朝までボランティアで現地の支援活動に参加しました。  また、必要とする被災者に、白杖、キーホルダー型音声時計、小型点字器、小型点字器用メモ帳を提供しました。 《43ページ》 3.新たな事業の開始 (1)自立支援事業 @ 事業の必要性  中途視覚障害者が仕事や社会的活動を継続するために、自立訓練は非常に大きな役割を果たします。しかしながら、治療の限界を告げられた中途視覚障害者が障害者手帳を取得することやリハビリテーション施設で訓練を受けることは、なかなかその一歩が踏み出せず、そのことが結果的に医療と福祉との間に空白をつくることになったと言われています。  一方で、障害を受容し自立訓練を受けることは難しくても、日々の生活で音声時計が必要になったり、便利なキッチン用品がほしいことなどがきっかけで「わくわく用具ショップ」に足を運び様々な情報に触れるうちに、次のステップとして訓練施設につながっていく事例がたびたびあり、それはまさにリハビリテーションに向かう自然なプロセスであったように感じます。  2012年よりロービジョン検査判断料が報酬化したことで、情報提供施設やリハビリテーション施設と連携を取ろうとする医療機関が少しずつ増えてきました。すると、ロービジョンケアをする眼科医に、福祉機器や生活を便利にするグッズが徐々に知られるようになり、訓練施設の紹介と同時に、グッズ販売を行なう「わくわく用具ショップ」の紹介もしていただけるようになりました。  こういった背景を踏まえ、当法人の中に訓練施設を設置し、同じ建物内でワンストップのサービスを提供することが、更なる視覚障害者福祉の向上につながるとの視点から、2017年に法人の中に自立訓練を行なう障害福祉サービス事業所を開設しました。 A 自立訓練事業  障害者総合支援法に基づいて給付という形式で提供される訓練事業です。この事業は身体障害者手帳(視覚障害)をお持ちの方であればどなたでも利用が可能で、白杖を使っての歩行訓練、パソコンやスマートフォンなどの操作を習得するICT訓練、点字訓練、調理や掃除など日常生活全般に関する日常生活技術訓練、拡大読書器やルーペといった補助具の使い方を習得するロービジョン訓練など、その内容は多岐にわたっています。《44ページ》それぞれの状況に応じて個別プログラムを作成した上で訓練提供が行なわれ、QOL(生活の質)の向上を目指します。開設時は自立訓練(機能訓練)でスタートし、2020年4月からは、自立訓練(生活訓練)に事業区分を変更し事業を継続しています。   写真:歩行訓練 写真:日常生活訓練 〔写真、終わり〕 B 指定特定相談支援事業  障害をお持ちの方が自立訓練や同行援護等の障害福祉サービスを受けるためには、自治体が交付する障害福祉サービス受給者証を取得しなければなりません。その受給者証の交付には、障害者ケアマネジメントに基づいた「サービス等利用計画」が必要です。この計画を作成するとともに定期的に見直しながら、当事者の自立生活を地域の様々な資源を活用し、サポートしていくのが相談支援専門員の役割です。  自立支援室では相談支援専門員をおき、新宿区、中野区、豊島区在住の方を対象に計画相談によるマネジメントを行なっています。  また、計画相談対象外地域の方々に対しても、視覚障害者等の福祉に関する様々な問題について相談に応じ、必要な情報提供および助言等を行ないます。   C 利用状況 表:相談支援事業 〔製作者注:以下、「年度」、「2017」、「2018」、「2019」の順に記載。注、終わり〕 基本相談(件) 82 208 271 計画相談(件) 13 106 111 ※2017年度は8月事業開始   表:自立訓練事業 〔製作者注:以下、「年度」、「2017」、「2018」、「2019」の順に記載。注、終わり〕 実利用人数 3 22 31 延べ回数 34 785 1193 歩行訓練 2人 15回 11人 206回 22人 409回 点字訓練 1人 5回 8人 120回 9人 249回 ICT訓練 1人 7回 15人 400回 23人 405回 日常生活訓練 1人 7回 2人 9回 7人 41回 ロービジョン訓練 0人 4人 36回 4人 90回 運動・余暇訓練 0人 5人 14回 9人 38回 ※2017年度は12月事業開始 〔表、終わり〕   《45ページ》 D 成果や好事例 ・その1  Fさんは、錐体杆体ジストロフィーという視野が筒状に狭くなると同時に、視力も低下する難病で、56歳の時に利用相談に来られた時には視力が0.02の状態でした。かつてピアノの先生をされていたFさんは、生活訓練をご自身にとっての「お稽古」ととらえ、毎回の訓練で学んだことに対して復習を欠かしたことはなく、次の訓練の時間までには確実にできるように仕上げてくる姿勢には、とても頭が下がりました。FさんはiPadを14時間、パソコンを18時間、点字を88時間、歩行を130時間受講され、iPad、iPhone、パソコンを使いこなし、歩行訓練で行く経路のメモを点字で書いて携行し、おひとりで東京駅、羽田空港、東京オペラシティ、サントリーホール等、ご希望されるところはすべて行けるようになりました。 ・その2  Aさんは、墨字を読める大きさに拡大すると視野に1文字しか入らないくらい、視野の狭い障害をお持ちの方でした。2018年6月から2019年12月まで、週2回のペースで訓練を利用されました。2018年5月にわくわく用具ショップのお客様として来館され、2年前に購入された携帯型の拡大読書器がうまく使えないというご相談がきっかけでした。訓練をお勧めしたところ、すぐに利用を決断してくださいました。視機能を活用するための訓練は8回であっさり終了し、その後はスマートフォンの訓練を約半年受講され、希望されていた電話、メッセージ、OCR(光学文字認識)機能を使った文字読み上げの機能を使えるようになりました。スマートフォンの訓練が終わると、点字の訓練を約1年間受講され、点字の文章が読めるようになりました。ご家庭の事情で書きの訓練は半ばで終了されましたが、75歳の方でもコツコツと努力されれば、スマートフォンも点字も使えるようになるという、とても素晴らしい実績を残してくださいました。 (2)指定管理事業  2014年4月より当法人は、指定管理者として川崎市視覚障害者情報文化センター(旧・川崎市盲人図書館)を運営しています。ここでは当法人の培ってきた製作技術、サービスノウハウを活かし、地域に密着したサービスを行なっています。 @ 経緯  川崎市盲人図書館は1962年、旧社会福祉会館内に「盲人図書室」として開設。1968年厚生省から「点字図書館」としての指定を受け、1974年「川崎市盲人図書館」と名称を変更し、50年の歴史を歩んできました。川崎市の方針により2014年から名称を「川崎市視覚障害者情報文化センター」(以下、センター)に変更し、指定管理者を選定し運営することになりました。《46ページ》当法人としては、これまで盲人図書館が行なってきた事業を維持・継承した上で、当法人が持つ様々な知識、技術、ノウハウを活かすことにより、より充実したサービスを提供することが可能であると考え、指定管理者に応募いたしました。  2012年11月26日の川崎市議会で議案が通過し、指定管理者として5年契約で運営することになりました。2013年、一年間の準備期間を経て、2014年4月にセンターがオープンしました。   写真:施設外観 〔写真、終わり〕   図:視覚障害者情報文化センター 3階 パソコン訓練室 相談室 生活情報・用具展示ルーム サービスルーム プリント室 ネットワーク室 閲覧室 スタッフルーム 視覚障害者交流室 録音室 対面朗読室 多目的室B 多目的室A-2 多目的室A-1 〔図、終わり〕 A 施設の運営方針と組織体制  当法人が地域の視覚障害者情報提供施設を運営するのは初めてです。初代センター長・小野俊己(おのとしみ)は、川崎市の視覚障害者が心豊かな生活を過ごせるよう、次のようなミッションを掲げました。 1)生活、学習、仕事、余暇に必要な情報を提供する。 2)歩行訓練、日常生活技術訓練、コミュニケーション訓練、IT機器の操作訓練などを提供する。 3)文化活動に重点を置き、各種講座、朗読会、落語・講談会、音声ガイド付DVD映画体験上映会、コンサートを開催する。  さらに中期ビジョンとして、以下の3点を挙げました。 1)南東から北西へ約33kmにわたる細長い地形の川崎市に住んでいる視覚障害者に対して、どこにいても質の高いサービスを提供することを目指す。 2)いつも必要とされるセンターを目指す。 3)日常生活のQOLを高めるための知識と自立支援訓練を提供する。  組織体制としては、職員4名、嘱託職員7名(うち視覚障害職員2名)とその介助パート職員2名でスタートしました。嘱託職員を7名としているのは専門的なスキルを持つ職員により事業を行なうためです。 B 事業内容とその特徴  センターは、点字図書館事業、各種訓練及び相談事業、用具の斡旋・販売事業の3つに加え、文化イベントの開催という文化普及事業の4つの事業を行なっています。  点字図書館事業は、点字図書・録音図書の製作と貸出を行なっています。《47ページ》貸出サービスは短納期でリクエストに対応できるように、他館所蔵の録音図書でサピエ図書館にデータがある場合は、直接ダウンロードしてCDにコピーして貸し出したり、メモリーカードにコピーして提供しています。これにより他館から資料を借りる郵送期間を削減できます。点訳・朗読ボランティアの養成は、市内のボランティア団体の協力を得て行なっています。また、プライベートサービスは個人が希望する図書を希望の形式で製作するもので、点字、録音以外に、テキストデータ、テキストデイジーの製作といったニーズにも対応しています。これらの多様な方式による資料提供は、当館の図書製作部の技術支援を受けることにより可能となっています。一方、川崎市は「映像のまち」を標榜しています。センターではDVD映画の音声ガイド製作ボランティアの養成、音声ガイドの製作も行なっており、年間の製作数も全国でトップクラスになっています。  訓練は、白杖を使った歩行訓練、音声パソコンやスマートフォンの操作を指導するICT訓練、点字を習得するコミュニケーション訓練、調理や掃除などの日常生活技術訓練を行なっています。訓練は半年から1年にわたり定期的に行ないます。一方、相談は、訓練前のヒアリングをはじめ、音声パソコン、スマートフォンに興味がある方への機能紹介、ICT機器や白杖歩行の短期的な指導、デイジー図書再生機など用具販売コーナーで購入した商品の操作説明、書類の代読・代筆等、個別のニーズに沿って柔軟に対応しています。訓練・相談とも利用料は無料で、期間・内容は利用者の要望に合わせて対応しています。また、訓練を受けるまでの手続きは、役所を通さずにセンターとのやり取りだけで済ませることができますので、思い立った時にすぐに開始することができます。このようにニーズに合わせて柔軟に対応できるのは、訓練・相談事業を川崎市の独自事業で行なっているためで、センターの特徴的なサービスと言えます。  用具の斡旋・販売事業では、当館のわくわく用具ショップと連携し、補装具・日常生活用具の制度対象品の斡旋をはじめ、生活に便利な様々な用具を販売しています。この用具販売は視覚障害者から要望の多いサービスですが、全国的に用具を取り扱っている施設は少ないのが現状です。当法人が指定管理者になる際にも、サービスの目玉の一つとして川崎市にアピールいたしました。室内には、テーブルと椅子が用意されており、ゆっくりと商品を選ぶことができますので、用具を購入するために来館される方も多くいらっしゃいます。  このようなセンターのサービスを利用してもらうには、まず当事者にセンターのことを知ってもらう必要があります。施設に来る方をただ待っているだけでは来館者は増えません。そこで、広報を兼ね、文化イベントの開催を積極的に行なっています。オープンした年の4月から音声解説付きDVD映画体験上映会を毎月1回開催しています。《48ページ》れきおんクラブ(歴史的音源を楽しむ会)は、国立国会図書館が行なっているSPレコードのデジタル配信サービスを利用して、古い名曲を楽しむ会です。2か月に一度、テーマを決めて開催しています。ヨガは室内でできるエクササイズとして視覚障害者に人気があります。センターでは、2017年からヨガ教室を試行的に開催しました。好評でしたので翌年からほぼ毎月1回、定員25名で定期的に開催し、2020年から月2回に増やしました。また、読書会、春のコンサート、冬のコンサート、センターまつりといった定例のイベントに加え、朗読会、ミニコンサート、各種セミナーも随時開催しています。その他、当館の「ふれる博物館」と連携し、年に一度のペースで触れる展覧会を実施しております。このように多様な文化イベントを開催することにより、徐々にセンターの存在を知ってもらえるようになってきました。 C センター周辺環境の整備  センター周辺の環境整備にも力を入れました。JR川崎駅からセンターまでのルートに誘導ブロックが設置されていますが、駅前の広場では誘導ブロック上に多数の自転車が放置されていたため、白杖を使って一人でセンターに来るのは慣れていても大変な状況でした。そこで、川崎市や警察署を訪問し、放置自転車の取り締まりを依頼したことにより、現在では誘導ブロック上に自転車はまったく置かれていません。また、ルート上にある日進町の交差点は片側2車線の幅の広い道路ですので横断歩道の距離が長く、まっすぐに横断するのが難しい視覚障害者がいます。そこで横断歩道にエスコートゾーンを要望し、設置してもらいました。さらに、センターに最も近い京急八丁畷駅からは誘導ブロックが敷かれていませんでしたが、ねばり強く要望し、2017年に設置してもらうことができました。このような取り組みにより、センターへのアクセスが向上しました。   地図:JR川崎駅・八丁畷駅からセンターまで 〔地図、終わり〕 D 今後に向けて  センターでは利用者に、センターの様々なサービスを積極的に紹介するようにしています。《49ページ》例えば、訓練を行なっている利用者には便利な用具や点字図書・録音図書を紹介したり、図書の貸出を利用している方には、用具やイベントの紹介をしています。これまで利用していなかったサービスを利用することで、当事者のQOLを高めてもらうことができます。  このように事業を進めてくることにより、図書の利用登録者は2013年の319名から2019年には470名と盲人図書館時代の1.5倍に増え、用具の斡旋取扱い点数も年間1,300点を超えるほどになりました。また、春や冬のコンサートでは100名を超える方々に来場していただいています。  2018年、指定管理を受けて5年が経過し2期目の指定管理者の募集が行なわれました。当法人はこれまでの実績が認められ、引き続き指定管理者として5年契約で運営を委託されました。これからも川崎市民の視覚障害者のQOL向上のため、地域に根差したサービスを市内全域に広げられるよう努力してまいります。 (3)ふれる博物館  @ 開設までの経過  2016年、分館での録音製作課の業務が本館に移行したため、空いた分館の利用法を検討した結果、図書製作部長・和田勉(わだつとむ)の発案により「手と目でみる教材ライブラリー」(以下、ライブラリー)を主宰する大内進(おおうちすすむ)氏の協力を得て、氏の所蔵する模型類を中心に展示する「ふれる博物館」を開館することとなりました。触察を通じて、点字図書、録音図書からは得られない3次元情報により、視覚障害者の知識・教養を豊かにすることの手助けをするとともに、晴眼者にもさわる体験を提供する場とすることを目的とし、併せて今まで収集した盲人用具の整理にも努める博物館です。運営費はこの分館を寄贈してくださった池田輝子(いけだてるこ)氏(2020年4月没)記念とし、池田氏から別に寄贈いただいたマンションからの収益を充てることにしました。  2017年4月より開館準備を始め、内装を一新し、11月のプレオープンに向けて準備を進めました。準備にあたったのは元館長の小野俊己でした。  なお開館日は、プレオープンは金曜日と土曜日の週2日、2018年4月本格開始からは、本館の見学日である水曜日を加え週3日としました。企画によっては、高田馬場の終了後、展示品を川崎市視覚障害者情報文化センターに運び展示して、川崎市民にも同様に楽しんでいただきました。 A 企画展示の概要 ・プレオープン企画展「日本の城」 会期 2017年11月10日から2018年3月31日 来場 434人  イタリアのアンテロス美術館制作、ライブラリー所有の「最後の晩餐」を常設として展示。《50ページ》企画展示ではライブラリー所蔵の、縮尺150分の1の松本城をはじめ、300分の1の名古屋城、彦根城、大阪城、姫路城、熊本城の天守閣や、模型製造会社の株式会社童友社の小さな模型、会津若松城など12城の天守閣を展示しました。石垣の反り、幾層もの屋根、また姫路城の模型では3つの小天守や渡櫓、曲輪等含めた城郭全体の構成を展示することができました。   写真:企画展のリーフレット 〔写真、終わり〕 ・第1回企画展「触れて知る レオナルド・ダ・ヴィンチ」 会期 2018年4月11日から7月14日 来場 372人  常設の「最後の晩餐」と「モナ・リザ」の石膏によるレリーフ模型を中心に、外輪船、空気スクリューなど素描から起こした発明品の模型10点、レオナルド自身の胸像等を展示し、ダ・ヴィンチの多彩な才能と生涯を紹介しました。また来館の記念品として当館点字製作課出版の点字図書『ふれる世界の名画集』から、「モナ・リザ」と「白貂を抱く夫人の肖像」を抜き刷りにして販売しました。   写真:企画展のリーフレット 〔写真、終わり〕 ・第2回企画展「宇宙をさわる」 会期 2018年8月17日から12月22日 来場 545人 協力 大学共同利用機関法人自然科学研究機構国立天文台  大学共同利用機関法人自然科学研究機構国立天文台専門研究員の臼田(うすだ)−佐藤功美子(さとうくみこ)氏の協力を得て、充実した企画が実施できました。同天文台から太陽系惑星の大きさ比較キット、すばる望遠鏡、小惑星イトカワとリュウグウ、月の3Dプリンター模型などを、ライブラリーからはアポロ13号とサターンV型ロケット、スペースシャトル、はやぶさの精巧な模型をお借りし、紐を使った太陽から惑星までの距離比較の体感コーナーを設置するなど、地球から、月、太陽系から天の川銀河、宇宙へと広がるストーリーを展示することができました。また、臼田−佐藤氏の講演会「体験型 宇宙を調べる」、国立大学法人京都大学大学院の嶺重慎(みねしげしん)氏による点図のワークショップ、DVD映画音声解説付き特別上映会「アポロ13」も開催して、多角的な情報提供を行ないました。なお、天文に詳しい元中学校教諭の大越治(おおごえおさむ)氏に週1回ボランティアで来ていただき、詳しく知りたい来館者のニーズにも対応できました。   写真:企画展のリーフレット 〔写真、終わり〕 ・第3回企画展「ルイ・ブライユの生家と指で巡る東京名所観光」 会期 2019年1月25日から5月25日 来場 783人 協力 株式会社はとバス  当館独自の所蔵展示物として公益財団法人石橋財団から助成をいただき製作していた、点字発明者ルイ・ブライユの生家と、現在の当館本館・別館の建築模型が2018年の暮れに納品されたので、建築に的を絞り、都内の名所建築とともに展示をしました。ルイ・ブライユの生家は東西の壁面を外すことにより屋内を触ることができ、当館の模型はフロアごとに外せ、間取りを触ることができます。《51ページ》ライブラリーからは、東京駅丸の内駅舎、雷門、東京タワー、スカイツリー等を借りて展示しました。東京観光ということから、株式会社はとバスに協力を依頼し、現役バスガイドさんによる各建物にまつわる説明を収録、会場で聴いていただき、またCDにして視覚障害来館者へ配布もしました。はとバスのバスガイドさんにはイベント「耳で聴く東京観光」をお願いし、本館多目的室で実施しました。東京駅を出発して皇居、霞が関、東京タワー、お台場、豊洲、銀座を経て東京駅に戻る実際の1時間コースを生で解説していただき、好評を博しました。   写真:企画展のリーフレット 〔写真、終わり〕 ・第4回企画展「ルイ・ブライユと、さわって学べる点字の世界」 会期 2019年6月26日から9月28日 来場 641人 協力 国立大学法人筑波大学附属視覚特別支援学校、株式会社国士社、公益財団法人共用品推進機構  晴眼の子どもたちの、夏休みを利用した来館を意識した企画です。インターネットの子ども向けポータルサイト「Yahoo!きっず」の人物検索では5年連続1位のルイ・ブライユの胸像や、国立大学法人筑波大学附属視覚特別支援学校のご協力を得て製作した点字以前に考えられていた視覚障害者用の文字のレプリカ、また点字盤や点字タイプライターも展示し、子どもたちには点字タイプライターが好評でした。点字を書く体験コーナー、関連図書コーナーも作り、点字図書や、手で見る学習絵本「テルミ」なども置いて、点字のPRを行ないました。  企画に合わせ、本館では晴眼の小学生対象の点字教室を実施。点訳きつつき代表で、小学生相手の講師経験が豊富な齊藤宮子(さいとうみやこ)氏に講師をお願いし、成功をおさめました。   写真:企画展のリーフレット 〔写真、終わり〕 ・第5回企画展「さわって確認!“働くクルマ”の博覧会」 会期 2019年10月23日から2020年3月14日 来場 538人 協力 株式会社タカラトミー  ライブラリーの所蔵品の中でも数が多い「車」の中で、テーマを絞って工事車両等働く車の展示を行ないました。単なる模型だけでなく、ラジコンで動くホイールローダー、パワーショベル、フォークリフトも展示し、実際の動きに触れていただきました。株式会社タカラトミーからトミカのミニカーをお借りし、また株式会社ブリヂストンの協力により巨大タイヤの模型パネルも製作しました。  会期終盤は新型コロナウイルスの影響で開館を続けるか危ぶまれましたが、何とか終了まで乗り切りました。   写真:企画展のリーフレット 〔写真、終わり〕   《52ページ》 ・第6回企画展「日本点字図書館と触図の試み」 会期 2020年7月15日から9月30日 来場 137人 協力 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所、株式会社ジェイ・ティー・アール、ケージーエス株式会社、大学共同利用機関法人自然科学研究機構国立天文台  当初、5月からオリンピック、パラリンピックにちなんだ展示会を企画していましたが、東京オリンピック、パラリンピックが開催延期になったためこの企画も中止、新たに、創立80周年とも絡め当館製作の触図の歩みを中心に最新の触図関連機器も展示する本企画となりました。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響により会期も7月からとなり、1日3回、2組の予約制としました。  電気成型方式による駅構内や公園の案内図の原版・シリコン型、エッチング方式・ステンレスホーロー方式・アクリル象嵌方式・FRP方式・UVインキによる触知案内図、地図などの触図冊子、サーモフォームをはじめバキュームフォーマー、先駆者・故後藤良一(ごとうりょういち)氏の業績を紹介しました。   写真:企画展のリーフレット 〔写真、終わり〕   《54ページ》 B 今後について  第2回から展示企画に関わる施設、団体、企業にご協力をお願いしていますが、それぞれ「ふれる博物館」の趣旨をご理解いただき、好意的に受け止められ視覚障害者の世界を知っていただくきっかけにもなっています。来場者も、視覚障害者と家族、関係団体だけでなく、美術館、博物館、水族館、また企業の方も、視覚障害者へのアプローチのヒントにと来館され、今後の社会への広がりを期待しています。 (4)文化資料室 @ 奥村文庫の整理と活用  奥村文庫は2018年度より図書情報課から本部へと所属が変更となりました。それに伴い専任の職員も常駐となり、管理面で向上しました。  収集資料のうち新聞記事については、2019年度から早稲田大学競技スポーツセンター体育各部部員のボランティア協力を得て、電子データ化を進めています。  今まで当館は著作権法第31条における「図書館等」に該当せず、奥村文庫の墨字資料の複製はできませんでした。また、資料の貸出もしていないため研究者の資料利用は、来館しての閲覧しか方法はなく、その不便さを解消するため、2019年より文化庁著作権課に相談をし、翌2020年4月10日、著作権法施行令第1条の3第1項第6号に基づく文化庁長官の指定を受け、図書館資料の複製が認められることとなりました。これにより、視覚障害に関する情報を社会に提供する手段を広げることができました。   表:奥村文庫 資料の収集と利用状況 〔製作者注:以下、「年度」、「資料の収集(点)」、「閲覧(件)」、「レファレンス(件)」の順に記載。注、終わり〕 2011 1,688 413 391 2012 1,789 525 420 2013 1,693 489 633 2014 1,858 419 576 2015 1,788 446 379 2016 2,317 269 177 2017 1,555 388 823 2018 1,719 493 152 2019 980 745 195 〔表、終わり〕 A 本間一夫記念室の整備  2018年4月に記念室を別館3階から本館3階奥村文庫の隣に移設して以来、職員が常駐することとなりました。2018年度見学者は622人、2019年度見学者は、851人。  2007年に委員数名で調査に行きました疎開先北海道増毛町に残してきた点字資料、貸出カード等が入った段ボール、十数箱が、2012年9月、本間家より送られてきました。開館当時の図書館運営や蔵書構成等の研究のきっかけとなる貴重な資料で、保存箱に入れて創立以来使用してきた木製の書棚に配架しています。   写真:本間一夫記念室 〔写真、終わり〕 《55ページ》 ・2015年 生誕百年記念の取り組み  10月7日、静岡県公立大学法人静岡県立大学短期大学部准教授(現・教授)・立花明彦(たちばなあけひこ)氏、実践女子大学短期大学部准教授・西脇智子(にしわきともこ)氏の研究をまとめ、公益財団法人一ツ橋綜合財団の助成を受けて『本間一夫(ほんまかずお)と日本盲人図書館』を出版しました。日本点字図書館創立前後の研究と、増毛に残してきた蔵書等の研究をまとめたものです。  また、本間一夫生誕百年記念特別展「本間一夫と日本盲人図書館」を開催しました。会期は11月12日から15日、著書『指と耳で読む』(岩波新書)の草稿、開館当時の自筆の記録ノート、幼少期から晩年までの写真などを展示しました。また、本間が幼少のころ読み聞かせをしてもらっていた立川文庫を故郷増毛町教育委員会から、関西学院在学時代に使用していた英文タイプライター他を次男・一泰(かずやす)氏から借り受け、展示しました。来場者は約300人。  この年は広く本間一夫と当館について紹介していただいた他団体への協力もありました。  西脇氏の企画による、10月12日開催の実践女子大学平成27年度公開市民講座「編集者と語る「本間一夫と日本点字図書館」−岩波新書『指と耳で読む』の原稿−」と、同月18日まで開かれた特別展「本間一夫生誕百年記念『指と耳で読む』展」に協力しました。その時展示したパネルや「本間一夫と日本点字図書館」の年表は長期貸与を受け、年表は記念室入口廊下に掲示しています。  東洋大学付属図書館所蔵展「バリアフリーの世界」(11月5日から2月29日)に同大卒業生で、当館理事を務めた故加藤善徳(かとうよしのり)氏の関連パネルを貸し出しました。  本間一夫の故郷増毛町においても教育委員会が重要文化財旧商家丸一本間家において「本間一夫生誕百年記念展示」を11月から12月に開催。展示する白杖、旭日小綬章、増毛町からの表彰盾を貸し出しました。 ・著作権許諾葉書の整理  2019年、『日本点字図書館五十年史』228ページにも一部写真掲載している、著作権者からの許諾葉書が、録音製作課から本間記念室に移管されました。《56ページ》1970年の著作権法改正により、点字図書製作については無条件で、録音図書については指定施設に限り著作権者の許諾なく図書製作が可能となりました。それ以前の許諾依頼に対する、三島由紀夫(みしまゆきお)、川端康成(かわばたやすなり)、安部公房(あべこうぼう)等からの返信葉書全1,890枚を保存し、整理しました。 《57ページ》 4.多様な広報活動と支援の広がり (1)インターネットとSNS @ ホームページでの情報発信  当館のホームページは、2000年度の開設以来、広報の役割を担ってきました。しかし、ページ構造が単純である一方で、当館の事業は多岐にわたっています。多様な募金活動に対応するため、また用具については商品紹介だけではなく、購入まで進めるショッピングサイトとして機能を充実させるため、ホームページの大幅な刷新を行なうことになりました。コンセプトは「訪れる人に感動を与え、当館への支援を意識していただけるページ」です。そのため、バーチャルツアーのような事業紹介や70周年記念動画を視聴できるページも追加しました。改修にあたっては、Web制作会社である株式会社ティファナ・ドットコムに依頼し、2010年6月1日に用具を除く全体ページを公開。翌7月1日には用具サイト「わくわく用具ショップ」を公開しました。用具については、同一コンテンツで更新可能なモバイルサイトも同時に公開しています。その後、2013年8月には英文サイトを追加しました。  公開後の月々の更新は、専門業者ではなく、各課のホームページ担当となった職員がHTMLの記述を勉強して自ら行なっています。この方針より、迅速できめ細かな更新が可能となっています。  2018年11月には、ふれる博物館と自立支援室のページを公開しました。このページの基本デザインは株式会社アモンドに制作を依頼しました。スマートフォンに対応したレスポンシブルデザイン(ブラウザによる文字の拡大等に追随して画面内で折り返してくれるデザイン)対応になっているのが特徴です。  なお、現在のホームページは、毎月13万近い閲覧数と、6万近い訪問者になっています。 A 情報発信教材や資料の公開と提供  新しいホームページの公開に伴って、各種資料の公開に取り組んでいます。公開早々に、それまで紙媒体を有償で提供していた点字版の図書目録(録音図書、点字図書)の点字データを無償でダウンロードできるようにしました。また、これも有償提供であった新刊図書案内『にってんブレイル』と『にってんボイス』の点字データも無償でダウンロードできるようにしました。『にってんボイス』については墨字版のPDFも無償公開。その他、図書情報課の利用案内、点字製作課で扱う販売図書の価格表、わくわく用具ショップの販売カタログなどについても、点字データ、PDFデータを無償でダウンロードできるようにしています。《58ページ》特に、点字図書の価格表は紙で提供するものは年1回の更新ですが、点字データ、PDFデータ版は2ヶ月ごとに内容を更新し、最新の情報を提供しています。こうしたダウンロード可能な資料が増えてきたことから、2016年から「各種資料のダウンロード」をまとめたページを作成して、訪問者の利便性を高めています。また、同じ時期に、「動画紹介コーナー」として、当館が公開する事業紹介動画や、過去の講演動画をまとめたページも作成しました。  こうした資料の中で、最も好評なものは、目の不自由な人の誘導方法を簡単にまとめたリーフレット『いっしょに歩こう』がダウンロードできるページです。もともとは、川崎市視覚障害者情報文化センターが開設初年度に作成したリーフレットですが、内容の良さから高田馬場でも紹介することになりました。紹介ページでは、リーフレットをダウンロードしなくても読めるようにしています。このページは、2017年3月1日に公開しましたが、今では当館ホームページでも閲覧数が桁違いに多いページです。 B ツイッターの活用  この10年の大きな社会的変化としては、iPhoneの登場がもたらしたスマートフォン文化の普及があります。企業や団体にとって、SNSを通じた情報の拡散や、ファンの獲得といったものが求められるようになりました。  当館では、2013年9月より主にツイッターを活用した広報活動を始めました。同年5月に、電子書籍製作室が事業啓発のためにツイッターアカウントを先行して取得した成果を踏まえ、公式アカウントは、募金活動、事業の広報、図書のサピエアップ情報などを主にツイートし、併せて、当館に関連する情報や視覚障害関連情報のリツイートを行なうことで、順調にフォロワーを増やしています。(2020年12月時点で、3,500フォロワー超え)  また、2018年と2019年の夏休み期間には、ツイッターを活用した、子どもたちの夏休み自由研究応援企画「#〔ハッシュタグ〕にってん自由研究」を実施、好評を博しました。  これまで最もリツイートを集めた記事は、2017年11月22日に投稿した、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社が、目の不自由な人のために古本を回収する Book For Two キャンペーンの開始を呼びかけるツイートで、1,909件のリツイートを集めました。また、ポケモンGOのリリース直後の2016年7月22日に、歩きスマホへの注意を喚起したツイートは、Webメディア「ハフポスト日本版」に記事として取り上げられました。  ハフポスト日本版「【ポケモンGO】「歩きスマホを心配する視覚障害者が大勢います」日本点字図書館が呼びかけ」 https://www.huffingtonpost.jp/2016/07/25/pokemon-go-nittento_n_11175976.html (2)本間一夫生誕百年記念事業  2015年は、創立者・本間一夫(ほんまかずお)の生誕100年にあたる年でした。《59ページ》このメモリアルイヤーを契機として、当館をより多くの人に知っていただくための多数の企画を進めました。   写真:記念ロゴ(デザイン:兼森藍(かねもりあい)氏) 〔写真、終わり〕 @ 伝記学習冊子の製作と発行  まず、最初に取り組んだのは、本間の生涯を広く知っていただくための導入ツールの開発です。本間の生涯と点字図書館の発展を伝える書物は『指と耳で読む』をはじめ、いくつかありますが、企画の入口として、若い世代にも手軽に読み進めてもらえる資料が必要だと考えました。また、その形式としては若い人にも読みやすいマンガ形式が望ましいと考えました。幸い、公益財団法人原田積善会に賛同をいただき、2014年度の事業として、例年よりも多額の助成金をいただき、A5判全12ページ(マンガ部分は8ページ)の小冊子『見えない人の「読めるしあわせ」を叶えるために 日本点字図書館創立者 本間一夫の生涯』を2015年3月に発行しました。  この冊子の製作については、省庁等のPRマンガの製作で実績のある株式会社トレンド・プロにお願いしました。同社には、当館事業へのご理解をいただき、費用面での配慮や要望にもきめ細やかな対応をしていただきました。この冊子は、ホームページへの掲載と共に、現在でも見学者用に印刷したものを配布しています。また、トレンド・プロには、その後も2冊のマンガ冊子を製作いただきました。 A 寄付の呼びかけ等  生誕百年記念事業では、インセンティブを付加した寄付を実施しました。5,000円以上ご寄付いただいた方を対象とした限定CD「声とエッセイで振り返る本間一夫」のプレゼントと、本間の生家である国稀酒造株式会社との共同企画である生誕百年記念酒の販売です。《60ページ》限定CDは、当館に残る本間の声の音源を選んで編集したものです。記念酒は、国稀酒造の寄付つき商品として販売いただいたもので、売り上げの一部を当館にご寄付いただきました。   写真:本間一夫生誕百年記念酒 白ラベル・黒ラベル 〔写真、終わり〕 B 生誕百年記念動画の制作とYouTubeでの公開  70周年を迎えた際に制作した動画は、当館の事業をよく伝えるものとして、ホームページで公開していました。しかし、YouTube等の動画公開サイトを活用した広報活動を考えたとき、5分程度の動画を新たに制作することになりました。時間数の制約から、テーマを生誕百年と支援のお願いに絞り、当館を応援いただく方からのメッセージを入れることにして、ピアニストの辻井伸行(つじいのぶゆき)氏、聖路加国際病院名誉院長(当時)の日野原重明(ひのはらしげあき)氏、オテル・ドゥ・ミクニのオーナーシェフ三國清三(みくにきよみ)氏、そして作家の乙武洋匡(おとたけひろただ)氏から当館を応援する推薦メッセージをいただきました。   C 本間一夫生誕百年記念イベントの開催等  10月7日、ホテルグランドヒル市ヶ谷において生誕百年記念講演会及び祝賀会を開催しました。講演会では静岡県立大学短期大学部准教授(当時)の立花明彦(たちばなあけひこ)氏の講演「本間一夫と日本盲人図書館 −本間ノートにみるその創設と準備、人となり」をメインに、元点訳奉仕者・荒谷(あらや)キク氏、元職員・小林康子(こばやしやすこ)氏、読者・阿佐博(あさひろし)氏、長男・本間一明(ほんまかずあき)氏に本間一夫の思い出を語っていただきました。  その他、記念出版、特別展、実践女子大学他外部団体の取り組みへの協力は文化資料室の項(55ページ)をご覧ください。   (3)イベント @ 日本点字図書館オープンオフィスの実施  本間一夫文化賞・にってん野路菊賞の授賞、勇退奉仕者への感謝状贈呈を行なう「日点みんなの集い」を毎年実施していましたが、規模を拡大し、当館の支援者を増やす目的で2013年より「点字図書館オープンオフィス」(2年目から「日本点字図書館オープンオフィス」)を開催しました。(2018年、2020年は実施せず、日点みんなの集いを開催)  11月の土曜と日曜、二日間にわたり、閉架式の書庫から図書を出したり、点字を書いたり、あるいは点字印刷・リング製本、朗読録音、白杖歩行など事業そのものの体験や、他団体の協力を得て盲導犬体験等も実施しました。 《61ページ》  また、多くの方に興味を持っていただき、来場していただくために、講演会やミニコンサートをつながりのある有名人にお願いし、ご協力いただきました。来場者数は毎回約1,000人から1,200人でした。   写真:第1回オープンオフィス(2013年) 〔写真、終わり〕 オープンオフィス 講演等一覧 2013年度 内容 講演「目の見えない人々への社会的な貢献として何ができるか」  講師:日野原重明氏(聖路加国際病院理事長・当時) 講演「アークどこでも本読み隊3年間の歩み〜全盲の日本人がタイで図書館を作った理由〜」  講師:堀内佳美氏(ARCどこでも本読み隊代表) 朗読会:「エリの読み聞かせ 食育とバリアフリーの『絵本りんご』他朗読会」 第1部・第2部  朗読:エリ氏(詩人、歌人、作詞家) 講演「視覚障害者と点字〜文字を持つことの意味を問い直す〜」  講師:松谷詩子氏(当館職員・当時) 2014年度 内容 シンポジウム「障害者の読書支援とボランティア活動〜これからの日本点字図書館の使命と役割〜」 第1部 基調講演「コミュニティデザインとしてのボランティア活動」  講師:成松一郎氏(有限会社読書工房代表) 第2部 参加者全員ディスカッション「障害者の読書支援とボランティア活動」  司会:長岡英司氏(筑波技術大学教授・当時) 講演「東京ディズニーリゾートのユニバーサルデザインへの取り組み」  講師:野口浩一氏(株式会社オリエンタルランド CS推進部CS推進グループ) オータムコンサート「服部こうじ ギター&三昧 〜秋を彩るMUSIC LOVE CONCERT〜」  出演:服部こうじ氏(ミュージシャン)ほか 講演「初めて日本点字図書館に来た日」  講師:黒柳徹子氏(女優) 2015年度 内容 講演「指と耳の読書〜本間一夫先生をめぐって〜」  講師:出久根達郎氏(作家) コンサート「スーパー・ピアノ・デュオ〜クラシックからポップスまで〜」  ピアノ連弾:三好明子氏・三好俊行氏 ラジオ日本「小鳩の愛〜eye〜」公開録音  ゲスト:堀内恒夫氏(元読売巨人軍、参議院議員・当時) トークイベント・本間一夫生誕百年記念特別企画 「本間一夫、図書館への思いを探る〜日点の源流に触れる〜」  司会:長岡英司氏(筑波技術大学教授・当時)  講師:工藤知子氏(元秘書)/阿佐博氏(当法人評議員・当時)/長谷川貞夫氏(当法人評議員・当時)/岩上義則氏(元当館館長)/高橋実氏(社会福祉法人視覚障害者支援総合センター理事長・当時) 2016年度 内容 コンサート「小野リサ ミニコンサート」  出演:小野リサ氏(ボサノヴァ・シンガー) トークイベント「「異文化に触れる」〜トークと香り、触覚、味覚、音楽と共に楽しむ世界旅行〜」  講師:秋沢淳子氏(TBSアナウンサー・当時) 講演「視覚障害者の皆さんから教わったこと」  講師:迫田朋子氏(当館評議員、元NHK放送総局番組制作局教育番組センター・チーフディレクター) 講演「小説は何のためにあるか」  講師:阿刀田高氏(当館後援会長、直木賞作家、山梨県立図書館館長・当時) 2017年度 内容 講演「時代の曲がり角に立って」  講師:田中眞紀子氏(元衆議院議員) 講演「映画で世界を広げよう 拡大出張版」  講師:平塚千穂子氏(バリアフリー映画鑑賞推進団体シティ・ライツ)/田中正子氏(同左) 講演「まあるい地球の仲間たち in 日本点字図書館」  講師:イルカ氏(シンガーソングライター、IUCN国際自然保護連合親善大使) トークイベント「ラジオと私〜永六輔さんの思い出と共に〜」  講師:外山惠理氏(TBSアナウンサー) 2019年度 内容 講演「人にもやさしく、自分にもやさしく暮らす」  講師:香山リカ氏(精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授) 講演「東京パラリンピックを100倍楽しむ方法」  講師:河合純一氏(一般社団法人日本パラリンピアンズ協会会長) コンサート「秋川雅史 ミニコンサート」  出演:秋川雅史氏(テノール歌手) A 「日点みんなの集い 〜声のライブラリー発足60年記念〜」開催  1958年4月に声のライブラリーを開始してから60年を迎えた2018年の11月10日、館内の大規模修繕工事を控えて開催を見送ったオープンオフィスの代わりに開いた「日点みんなの集い」を声のライブラリー発足60年記念とし、第1部の表彰式典の後、第2部として記念イベントを実施しました。  ライブラリー発足当初からご協力いただいている、当時株式会社ニッポン放送のアナウンサーでした鶴岡巍(つるおかたかし)氏による講演「録音雑誌第1号製作の思い出」では、開始翌年に発刊した国内初の録音雑誌『テープマガジン文藝春秋』の製作における苦労話が披露されました。  また、当時テレビ女優を始められたばかりの初期の朗読奉仕者、黒柳徹子(くろやなぎてつこ)氏からは録音された声のお祝いメッセージをいただき、映画の吹き替えなどでご活躍するかたわら朗読奉仕にご協力いただいている若山弦蔵(わかやまげんぞう)氏には、芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)の『羅生門』を魅力的な低く渋みのある声で生朗読していただきました。  最後は、録音製作に長年関わってきた元図書製作部長の上野目玲子(かみのめれいこ)が「当館における録音図書製作方法の変遷−オープンリールから現在のびぶりお工房システム−」と題し、時代に即して変化してきた製作方法の60年を紹介しました。 《64ページ》 B 盲人用具部設立50周年記念イベントの開催  1964年、当館の創立者・本間一夫が欧米の視察から帰国し、約150点の盲人用具を持ち帰りました。翌年、展示会を開催したところ大きな反響があり、それがきっかけとなり1966年、用具部が発足しました。ここから盲人用具の普及が始まると共に、様々な用具の開発が行なわれ、視覚障害者のQOL向上に繋がっていきました。今では、盲人用具が視覚障害リハビリテーションに重要な役割を果たしているだけでなく、一般商品の共用品化にも影響を与えています。  2016年の盲人用具部設立50周年を迎えるにあたり、プレイベントとして2014年に歴史的盲人用具を集めた展示会「本間一夫と盲人用具の50年展」を開催し、50周年にあたる2016年には記念講演会と祝賀会を開催しました。  「本間一夫と盲人用具の50年展」では、本間一夫が持ち帰った盲人用具、及びこれまで収集し保管していた約320点の用具から157点を選び展示しました。  @昭和30年代、A昭和40年代、B昭和40年代以降、C共用品のヒントになった盲人用具の4つのコーナーに分け、初期の点字タイプライターや点字盤、盲聾者用の点字タイプライター、作図器・定規、計量器、タイマー、腕時計、目覚まし時計、音声時計、オープンリール式の盲人用テープレコーダー、盲人用オセロなどの代表的な商品を展示しました。  2016年には、社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会盲人用具部会が主催、当館が共催となり、11月24日(木)ホテルグランドヒル市ヶ谷にて、盲人用具誕生50周年記念講演会と祝賀会を開催しました。用具部初代部長・花島弘(はなしまひろし)氏より「盲人用具誕生を振り返って」、部長経験者の杉山雅章(すぎやままさあき)より「近年の盲人用具について」の講演を行ないました。花島氏からは設立時からの様々なエピソードをお話しいただきました。150点の盲人用具がアメリカから届いたのは年末の12月29日。税関から呼ばれ、寒風が吹く横浜埠頭に商品を並べ、係員に一点一点説明したときのこと。録音図書に使用されるオープンリールテープが高価であったため、4トラック方式にしたこと。松下電器産業株式会社(現・パナソニック株式会社)の尽力により、録音時間を倍にできる半減速技術をフィリップス社(オランダ)から無償使用許諾を得て、盲人用カセットテープレコーダーを開発したときのこと。1990年点字制定百年の年に、子どもから大人までだれもが打ちやすい点筆を目指し、木製の握りを開発したときのこと。《65ページ》テレビの音声が聞けるラジオ「テレビサウンドレシーバー」の製品化は、実は本間一夫が治療院でたまたま一緒になったソニー株式会社の井深大(いぶかまさる)氏にお願いして実現したものであることなど、当時の状況をユーモアを交え興味深く話していただきました。続いて杉山からは、盲人用具開発の流れを10年単位でまとめ、それぞれの年代で注目されてきたテーマについて説明を行ないました。1960年代は温度計・寒暖計・体重計などの計量機器の充実の時代、70年代は盲人用カセットレコーダーなどのカセットテープの時代、80年代は時計、電卓、体温計などの音声機器開発時代、90年代はデイジー図書推進の時代、2000年代はロービジョン機器普及の時代、2010年代は災害対応の時代として、盲人用具の進展を整理しました。この後、ホテルの別室で60名ほどが集い記念祝賀会を開催し、出席された皆さんから用具の思い出話、今後の用具への期待などの沢山の温かい言葉をいただき祝賀会を終えました。  このようなイベントを通じて改めて、先人達の盲人用具開発への強い思いを感じると共に、その蓄積によって今の視覚障害者の生活があることを理解することができました。これからも視覚障害者のニーズにあった便利なものを多くの方に提供できるようスタッフ一同尽力してまいります。   写真:「本間一夫と盲人用具の50年展」会場の様子 〔写真、終わり〕 (4)広がる支援の輪  当館は多くの方々、企業、団体から支えられています。その輪が、少しずつ広がりを見せており、新たな力となっております。 @ 個人からの一般寄付・遺贈等  当館は、創立以来80年間、多くの篤志家に支えられてきました。今でも年間を通じて募金活動を行なっており、歴史が長い分、祖父母から孫まで3代にわたりご寄付を引き継いでくださっている家もあります。また古くからの利用者、ボランティア、支援者から遺贈としていただくこともあり、大切に使わせていただいています。  多方面に支援が広がるなか、残念ながら個人の支援者は高齢になられるとともに件数が減少しています。 A 企業・団体からの寄付  個人からだけでなく、企業・団体からもご寄付をいただいております。  特殊な例では、高田馬場にある株式会社 TAKARA & COMPANY(旧・宝印刷株式会社)では、株主優待品の選択肢の中に「社会貢献活動団体」を入れており、株主が優待品相当額を社会貢献活動団体に寄付する選択ができます。同社では、こうして集まった本来他の選択により支出する相当額を当館にご寄付いただいています。 《66ページ》   表:個人・企業・団体からのご寄付 〔製作者注:以下、「年度」、「件数」、「金額(円)」、「備考」の順に記載。注、終わり〕 2010年度 11,247 336,590,800 創立70周年 2011年度 10,091 98,822,083 東日本大震災の影響 2012年度 10,076 120,927,625 2013年度 10,140 144,211,229 2014年度 10,112 134,343,036 2015年度 10,707 251,484,543 本間一夫生誕百年 2016年度 9,462 116,475,776 2017年度 9,423 117,625,807 2018年度 9,030 135,308,144 2019年度 8,654 118,322,509 〔表、終わり〕 B ワンブック・プレゼント運動  1992年に開始したワンブック・プレゼント運動は、図書1タイトルの製作費を1口としてご寄付いただき、その図書に製作費を負担してくださった方のお名前を記させていただくご支援です。  株式会社イオン銀行では、この運動に対応して、イオンカードをご使用になった時に付与されるポイントを、お客様が当館にご寄付くださる仕組みを作っていただいております。  また、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社では、お客様から読み終わった本を提供していただき、その対価を当館にご寄付いただき新しい図書(録音図書)に生まれ変わらせるという、Book For Two というキャンペーンを2008年から2016年まで、震災の2011年を除いて展開してくださり、この運動に協力していただきました。  新たなつながりができたきっかけで、ご協力くださる企業もあります。ロクシタンジャポン株式会社では、製品を通じて素敵なひと時を提供したいという思いからラベルに点字を入れています。そのつながりから、この運動にも参加してくださいました。  その他個人でも、視覚障害者に本を提供したいという思いが具体的に伝わりやすい、とご協力くださっている方もいらっしゃいます。《67ページ》この10年間に、点字図書は延べ108件、522タイトルを、録音図書は延べ160件、721タイトルを製作することができました。   表:ワンブック・プレゼント運動の実績 〔製作者注:以下、「年度」、「点字 件数」、「点字 タイトル数」、「録音 件数」、「録音 タイトル数」の順に記載。注、終わり〕 2010年度 12 58 16 66 2011年度 16 64 14 45 2012年度 8 61 19 78 2013年度 11 70 18 100 2014年度 10 49 15 76 2015年度 12 51 16 84 2016年度 10 43 14 63 2017年度 10 39 15 69 2018年度 11 52 14 57 2019年度 8 35 19 83 合計 108 522 160 721 〔表、終わり〕 C さまざまな助成  当館の事業は社会の変化と進化に合わせた新しいサービスを取り入れております。そのための費用は当館の財力ではなかなか捻出できませんので、様々な団体からご助成をいただいています。  合成音声を用いたDAISY版理数教科書・教材製作システムの開発や、「ふれる博物館」開館に合わせた当館とルイ・ブライユの生家の触察模型では公益財団法人石橋財団に、マルチメディアデイジー教科書の製作ソフトのクラウド化の研究においては公益財団法人三菱財団にご助成をいただいており、アジア諸国の点字図書製作技術指導には一般社団法人霞会館が長く助成してくださっています。  単年度での事業では、墨字印刷物の発行や機器の更新などがあり、一般財団法人日本児童教育振興財団、公益財団法人原田積善会、公益信託久保記念点字図書援助基金のお世話になっております。大きいところでは、公益社団法人24時間テレビチャリティー委員会より図書を郵便局まで運ぶための2トントラックをご寄贈いただいています。  一方で、当館の基本となる図書の製作と貸出は、新規性を求める助成団体が多い中、公益財団法人鉄道弘済会、公益財団法人JKA、公益財団法人一ツ橋綜合財団、一般財団法人日本宝くじ協会、前田建設工業株式会社が、専門対面朗読・ロービジョンサービスでは社会福祉法人読売光と愛の事業団が一貫して支援を続けてくださっています。原本の無償提供は1952年以来株式会社岩波書店が続けてくださり、他にも株式会社文藝春秋、大手取次の株式会社トーハンもご協力いただきました。  ご紹介しきれませんが10年間で49の企業、団体から助成を受けました。   写真:24時間テレビチャリティー委員会より寄贈された図書運搬用トラック 〔写真、終わり〕   《68ページ》 助成団体 2010から2019年度(五十音順) 社会福祉法人朝日新聞厚生文化事業団 アサヒビール株式会社ワンビールクラブ 公益信託アジア・コミュニティ・トラスト特別基金「アジア民衆パートナーシップ支援基金」 イオンリテール株式会社 公益財団法人石橋財団 株式会社岩波書店 社会福祉法人NHK厚生文化事業団 一般財団法人NHKサービスセンター 大阪府民共済生活協同組合 一般社団法人霞会館 株式会社川上キカイ 関東支店 教職員共済生活協同組合 公益信託久保記念点字図書援助基金 独立行政法人国際協力機構 埼玉県民共済生活協同組合 公益財団法人JKA 公益信託障害者愛の福祉基金 全国生活協同組合連合会 全国ラジオチャリティミュージックソン実行委員会 全国労働者共済生活協同組合連合会 一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会 公益財団法人鉄道弘済会 社会福祉法人東京都共同募金会 東京都民共済生活協同組合 東京日本橋ライオンズクラブ立川福祉基金 株式会社トーハン 公益社団法人24時間テレビチャリティー委員会 公益財団法人日本財団 日本郵便株式会社 日本アイ・ビー・エム株式会社 一般財団法人日本児童教育振興財団 公益財団法人日本社会福祉弘済会 一般財団法人日本宝くじ協会 一般財団法人日本メイスン財団 公益財団法人パブリックリソース財団 公益財団法人原田積善会 公益財団法人一ツ橋綜合財団 独立行政法人福祉医療機構 株式会社文藝春秋 公益財団法人毎日新聞東京社会事業団 公益財団法人前川報恩会 前田建設工業株式会社 三井共同建設コンサルタント株式会社 公益財団法人三菱財団 三菱商事株式会社 三菱電機株式会社 公益財団法人森村豊明会 社会福祉法人読売光と愛の事業団 社会福祉法人黎明会 《69ページ》 D さまざまな支援  財政面の支援の他にも、多くの支援を受けました。  TBSのアナウンサーによる朗読会を2回開催しました。またつながりのある著名人に出演していただいたオープンオフィスにおけるミニコンサートや講演など利用者に喜ばれる企画では、無償もしくは少ない謝礼でご出演いただきました。  建物周りの植え込みは年に2回、東京都立農芸高等学校の生徒さんと先生のボランティアにより花を植え替えていただき、地域の方々の目も楽しませていただいています。  2020年の新型コロナウイルス感染拡大の初期には消毒液が手に入らず大変困っていましたが、近隣の産業用機器メーカーの東亜ディーケーケー株式会社は次亜塩素酸ナトリウム活性水を作る機器を製造していて、同溶液を大量に寄贈いただきました。 《71ページ》 5.海外支援事業の継続と成果 (1)池田輝子ICT奨学金事業  本事業は、高田馬場にお住まいだった池田輝子(いけだてるこ)氏から寄贈いただいた賃貸マンションの収益を原資として、アジア太平洋地域内の途上国から視覚障害を持つ若者を招聘して、情報コミュニケーション技術を学んでもらい、将来のリーダーとしてそれぞれの国で活躍してもらうことを目的として、2004年に開始しました。  当初は、マレーシアのクアラルンプールと日本とで、コンピュータの基本説明、Windowsの仕組み、エディタの操作、テキストやワード文書の作成と保存、Eメールの仕組みと送受信、インターネット検索など初歩的な内容の講習会でしたが、開始から数年間でアジアのパソコン環境は一変し、視覚障害の若者のニーズも変化し、初歩的な内容から、中高度な技術の指導へとニーズが増えてきました。そのため初級、中級コースだったのを、2010年の第7回からは初級コースは廃止し、中級、上級コースとし、講習生数も各9人、計18人に変更しました。  会場も、2007年からはマレーシアのペナンにある聖ニコラスホーム(St. Nicholas Home)の協力を得て、全日程をマレーシアで開催することにしました。  2012年からは、本講習会の卒業生が講師として後輩の育成に加わり、新たな体制となりました。  また2017年からは、新たに中級コースと上級コースの間に、エンパワメント講習を加えました。様々な環境にある国々から集まった視覚障害者同士が各国の現状を発表する情報交換や、組織運営やマネジメントの方法などを指導する内容が加わりました。当館の職員も毎年数名がこの講習に参加し、日本の内情や当館の業務のやり方などの講義を行なっています。  この講習会の卒業生は、自国に帰っても Teruko Ikeda ICT という名前のメーリングリストを通して、世代を超えてつながりを持ち、コンピュータ技術だけでなく、各種情報交換を行ないながら、盲人協会の幹部になったり、企業に就労したりしており、各国の視覚障害者の情報コミュニケーションの発展に寄与しています。 《72ページ》 (2)アジア盲人図書館協力事業  1994年12月から開催している本事業は、マレーシア盲人協議会をカウンターパートナーとして、ASEAN諸国の盲学校や施設職員をマレーシアに招聘し、点字図書館や点字出版所の基礎となるためのパソコン点訳と点字プリンタの操作方法を教え、講習会で使用した機材を各国に持ち帰ってもらい、点字教科書や資料の製作に役立ててもらうというものです。2002年の第9回まではマレーシアで実施し、日本からも指導者を派遣していましたが、この9年でマレーシア盲人協議会のスタッフが十分な指導力を取得したため、2003年の第10回からは、マレーシア盲人協議会のスタッフがコンピュータや点字プリンタなどの機器を持参し、各国に出向き、現地の盲学校、点字図書館、盲人協会などで働く教職員に対して、指導を行なうようにしました。  この社団法人(現・一般社団法人)霞会館助成によるコンピュータ点字製作技術指導講習会は、2010年以降2019年まで9回実施しました。2015年は講習会を実施せず、同助成によりアジア太平洋地域における視覚障害児教育に関する調査を行ないました。   表:コンピュータ点字製作技術指導講習会 〔製作者注:以下、「回次」、「開催年月日」、「開催国」、「参加人数」の順に記載。注、終わり〕 17 2010年10月11日から15日 中華人民共和国チベット自治区 7 18 2011年9月6日から9日 ミャンマー連邦共和国 12 19 2012年8月21日から24日 フィジー共和国 7 20 2013年9月16日から20日 サモア独立国 11 21 2014年9月11日から16日 東ティモール民主共和国 7 22 2016年10月16日から22日 キルギス共和国 7 23 2017年10月18日から21日 カンボジア王国 11 24 2018年11月17日から23日 トンガ王国 9 25 2019年9月17日から19日 ブータン王国 10 〔表、終わり〕 (3)北京の盲文図書館との姉妹館締結  2011年6月28日、当館は、同日北京に開館した中国盲文図書館との間で友好姉妹館協定を締結しました。今後、両館は相互発展のため交流を深めてまいります。 《73ページ》 6.施設と業務組織の充実 (1)施設の改修  当館の建物は、1996年3月に本館、1998年3月に別館が国有財産として、建て替えられましたが、経年とともに改修が必要となり、以下の通り、国の補正事業として、改修を実施してきました。  2009年度に2008年度の国の補正予算事業により、外壁の修理、雨漏り箇所の修繕、またロービジョンの方にはやや暗かった本館1階ロビーの照明の増設、LAN配線の張替え、本館通用口の屋根の新設、本館3階ロビーに空調機の増設などを実施しました。  2018年度に、2017年度の国の補正予算事業により、外壁の全面補修及び防水塗装、受変電設備の交換、本別館のエレベータの交換を実施しました。 (2)業務組織 @ 業務体制の再編  2014年4月1日、川崎市視覚障害者情報文化センターの指定管理を受託、指定管理部を創設。  2016年、相談支援事業と自立訓練(機能訓練)事業を開始することを決定し、そのための準備を進めました。近隣の関係施設や専門家との交流を図り、事業の認可申請や実施体制の整備についての情報提供や助言を受けました。翌2017年4月1日、自立支援室を創設し、8月1日、指定特定相談支援事業を開始しました。  2017年4月1日、「ふれる博物館」を開設。視覚障害者には触覚を介して知識を増やす機会を、晴眼者には触覚という視点から視覚障害への理解を深める機会を提供する場の実現を目的に準備を進め、当館分館に小規模な博物館を開設しました。  2018年4月1日、2016年改正2017年4月1日改正施行された社会福祉法施行規則により、組織を改編。評議員会を理事会の上に置く議決機関としました。同時に施設担当常務理事の所管を、施設日本点字図書館と、指定管理部、新設した生活支援部としました。生活支援部には用具事業課と室から昇格した自立支援課を編入しました。   A 多様な働き方の導入  2011年4月1日、従来の主任制度を廃止し、グループリーダー制度を開始しました。  従来の主任制度は異動があっても役職固定でしたが、新たなグループリーダー制度は、固定でなく、柔軟な運用を可能としました。《74ページ》このことにより多くの職員に若くして役職に就くという経験を積ませ、業務上の課題に対して自ら適切な解決策を策定し、効果的に実施できる人材を育成することを目的としています。  2013年4月1日より、従来の職員とは別に、すでに身に付けている能力を生かして、当館の事業を継続発展させるための人材の確保という目的で、嘱託職員制度を導入しました。2020年10月現在、点字製作課、録音製作課、自立支援課、用具事業課、総務課、指定管理部に、計17人配属しています。  また、2008年4月1日より導入しました再雇用制度については、定年後も経験を生かして重要なポジションを担う、高度な業務をこなすなどの成果が出ています。  2010年度以降の職員数及び、組織の変遷は以下の通りです。   表:2010年度以降の職員数(各年度4月1日時点) 〔製作者注:以下、「年度」、「職員」、「再雇用」、「嘱託」、「パート」、「派遣」、「備考」の順に記載。注、終わり〕 2010 57 2 0 66 2 2011 55 2 0 65 2 2012 54 3 0 63 2 2013 52 3 1 63 2 2014 55 2 10 70 2 指定管理部設置 2015 53 3 12 69 2 2016 51 4 15 71 1 2017 52 5 16 68 1 2018 52 6 17 64 0 自立支援課設置 2019 54 6 17 66 0 2020 56 4 17 63 0 〔表、終わり〕   《75ページ》 組織図(2011年4月から2021年12月現在) ※変更箇所を色付きで示しています。   図:2011年4月1日から2014年3月31日 監事と理事会と評議員会 理事会の下に理事長 その下に常務理事(一般会計)と常務理事(館長)(一般会計)と常務理事(特別会計) 常務理事の下に総務部 その下に総務課 その下にグループ 常務理事(館長)の下に点字図書館 その下に利用サービス部と図書製作部 利用サービス部の下に図書情報課 その下にグループ 図書製作部の下に点字製作課と録音製作課 それぞれの下にグループ 常務理事の下に事業部 その下に用具事業課(公益)と基金運用課(公益)と住宅管理課(公益) 用具事業課の下にグループ 変更箇所:グループ 〔図、終わり〕   《76ページ》   図:2014年4月1日から2017年3月31日 前ページの図に追加 点字図書館の下に指定管理部 変更箇所:指定管理部 〔図、終わり〕   《77ページ》   図:2017年4月1日から2018年3月31日 前ページの図に追加 点字図書館の下に自立支援室 変更箇所:自立支援室 一般会計・特別会計の区別廃止 〔図、終わり〕   《78ページ》   図:2018年4月1日から 監事と理事会 理事会の上に評議員会 下に理事長 理事長の下に本部担当常務理事と施設担当常務理事 本部担当常務理事の下に総務部と事業部 総務部の下に総務課 その下にグループ 事業部の下に基金運用課と住宅管理課 施設担当常務理事の下に日本点字図書館(館長)と指定管理部と生活支援部 日本点字図書館の下に利用サービス部と図書製作部 利用サービス部の下に図書情報課 その下にグループ 図書製作部の下に点字製作課と録音製作課 それぞれの下にグループ 生活支援部の下に自立支援課と用具事業課 用具事業課の下にグループ 変更箇所:評議員会 本部担当常務理事 事業部 基金運用課 住宅管理課 施設担当常務理事 日本点字図書館(館長) 指定管理部 生活支援部 自立支援課 用具事業課 〔図、終わり〕   《79ページ》 付録 表彰 *創立70周年記念誌に2010年度までの情報を掲載しているため、ここでは2011年度から2020年度の情報を掲載しています。 受賞年度は西暦に統一しています。 本間一夫文化賞 本間一夫文化賞は、当館創立の本間一夫を記念して視覚障害者の文化と福祉に特に顕著に貢献した個人・団体を表彰するものです。2004年に創設され、17名が受賞しています。 協賛:公益財団法人日本テレビ小鳩文化事業団 社会福祉法人読売光と愛の事業団   表 (敬称略) 年度 受賞者名 第8回 2011 竹下義樹 第9回 2012 浅川智恵子 第10回 2013 山内繁 第11回 2014 橋秀治〔たかはしひではる〕 第12回 2015 福島智 第13回 2016 岩田美津子 第14回 2017 藤野稔寛 第15回 2018 星川安之 第16回 2019 大内進 第17回 2020 岸博実 〔表、終わり〕 にってん野路菊賞 野路菊賞は、特に当館の事業と福祉に貢献した個人・団体を表彰するものです。野路菊は兵庫県姫路市を中心に自生する植物ですが、この賞の提唱者であり、姫路市にお住まいでした利用者のご寄付による基金で実施されています。   表 (敬称略) 年度 受賞者名 第19回 2011 松尾マサ 第20回 2013 長田富子/長田美子 第21回 2014 黒木佳代子 第22回 2015 西脇智子/坂巻克巳 第23回 2016 安田修 第24回 2017 森田茂樹 第25回 2018 道信啓子 第26回 2019 新井好子 第27回 2020 望月千枝 〔表、終わり〕   《80ページ》 各賞受賞一覧(ボランティア) 点訳・朗読・デイジー編集等のボランティアで、当館の推薦により外部の団体から表彰を受けられた方 褒章   表:緑綬褒章 年度 氏名(敬称略) 活動種別 2012年 秋 吉田宣 点訳 2014年 秋 岸栄子 朗読 〔表、終わり〕 東京都功労者表彰 主催:東京都   表:善行 年度 氏名(敬称略) 活動種別 2012年度 岸栄子 朗読 〔表、終わり〕 全国盲人福祉施設大会 主催:社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会   表 年度 氏名(敬称略) 活動種別 第59回 2011 岡山美恵子 点訳 高木ヨウ 朗読 第60回 2012 岸栄子 朗読 田端桂子 点訳 第61回 2013 石本幸子 朗読 徳間綾子 点訳 第62回 2014 最上亮太郎 朗読 第63回 2015 安東徑子 点訳 熊岡まみ 朗読 第64回 2016 鶴田静代 点訳 柳田暢子 デイジー編集 第65回 2017 西平美惠子 点訳 森田茂樹 ロービジョンケア 第66回 2018 佐久間昭二 点訳 松尾マサ 朗読 第67回 2019 杉本和 点訳 月岡陽美 朗読 第68回 2020 廣瀬三樹子 朗読 三羽静子 点訳   援護功労表彰 年度 氏名(敬称略) 第65回 2017 株式会社日立システムズ 〔表、終わり〕   《81ページ》 東京都社会福祉大会 主催:東京都 社会福祉法人東京都社会福祉協議会 社会福祉法人東京都共同募金会   表:知事感謝状 年度 氏名(敬称略) 活動種別 第60回 2011 中村陽子 点訳 古橋洋子 朗読 第63回 2014 新井好子 朗読 宮原惠美子 朗読 第64回 2015 池田久代 点訳 第65回 2016 佐久間昭二 点訳 第66回 2017 忽那幸子 点訳 中谷長子 朗読 第67回 2018 森雪佳津美 朗読 第68回 2019 増渕路子 朗読   表:会長表彰 年度 氏名(敬称略) 活動種別 第60回 2011 雨宮孝 朗読 石田牧子 点訳 佐久間昭二 点訳 第61回 2012 小原松子 朗読 北村公子 点訳 忽那幸子 点訳 中谷長子 朗読 第62回 2013 日高利恵 朗読 森雪佳津美 朗読 藁谷万寿子 点訳 第63回 2014 井原幸子 朗読 金子道弘 点訳 鈴木静代 点訳 増渕路子 朗読 宮坂和栄 朗読 第64回 2015 櫻井雅子 用具加工 佐藤まり 朗読 塩月さわ 朗読 第65回 2016 小松香代子 朗読 横田眞理子 点訳 第66回 2017 秋田谷光子 募金担当ボランティア 大越泰子 朗読 角野美砂子 点訳 長谷川邦子 募金担当ボランティア 東野径子 朗読 ボランティア・グループ「点訳くすのき」 点訳 第67回 2018 大政万里子 デイジー編集 岡山美恵子 点訳 佐藤千佳江 点訳 水野啓子 朗読 第68回 2019 安東徑子 点訳 すみれの会 点訳 点字教室ボランティアスタッフグループ 点字学習支援 第69回 2020 北村斉子 朗読 村惇子〔たかむらじゅんこ〕 点訳 理数専門点訳会シグマ 点訳   表:会長感謝状 年度 氏名(敬称略) 活動種別 第60回 2011 市川晴雄 デイジー編集 第62回 2013 長谷川加代子 朗読 松川なをみ 点訳 吉岡仁美 点訳 第63回 2014 山田慶子 点訳 第64回 2015 小田美保子 点訳 森みなみ デイジー編集 第65回 2016 高橋由美 デイジー編集 ボランティア・グループ「点訳アリス」 点訳 第67回 2018 穂刈蘭子 朗読 第68回 2019 島田順子 朗読 竹内弘道 朗読 第69回 2020 菊田晃代 朗読 〔表、終わり〕   《82ページ》 朗読録音奉仕者感謝の集い 主催:公益財団法人鉄道弘済会 社会福祉法人日本盲人福祉委員会   表:文部科学大臣賞 年度氏名(敬称略)活動種別 第41回 2011 上島博子 朗読   表:全国表彰 年度 氏名(敬称略) 活動種別 第41回 2011 夏井節子 朗読 第42回 2012 野沢淑子 朗読 ※岩手県立視聴覚障がい者情報センターより推薦 第46回 2016 大田裕子 朗読   表:地区表彰 年度 氏名(敬称略) 活動種別 第42回 2012 大田裕子 朗読 藤井典子 デイジー編集 第43回 2013 関谷美記子 朗読※多摩市立図書館より推薦 広田幸子 デイジー編集 第44回 2014 石本幸子 デイジー編集 高木ヨウ 校正※多摩市立図書館より推薦 第45回 2015 桝寿摩子 デイジー編集※福岡点字図書館より推薦 第47回 2017 大内信子 朗読 大澤美代 デイジー編集 第48回 2018 児玉純子 朗読 品川恭子 朗読※品川区社会福祉協議会より推薦 第49回 2019 唐沢道枝 朗読 柳田暢子 デイジー編集 第50回 2020 淺岡高子 校正 山本玲子 朗読 〔表、終わり〕   《83ページ》 各賞受賞一覧(役職員)  *役職等は受賞当時のものです。 叙勲   表:旭日小綬章 受賞年度 氏名 役職等 2011年 春 田中徹二 理事長 2015年 春 和波孝禧 評議員 〔製作者注:「禧」について正しくは?(しめすへん)に喜という字。注、終わり〕   表:旭日双光章 受賞年度 氏名 役職等 2010年 秋花島弘 理事   表:旭日単光章 受賞年度 氏名 役職等 2018年 秋 榑松武男 評議員 〔表、終わり〕 褒章   表:黄綬褒章 受賞年度 氏名 役職等 2010年 春 岩上義則 館長 〔表、終わり〕 工業標準化事業表彰 主催:経済産業省   表:経済産業大臣表彰 受賞年度 氏名 役職等 2011年度 田中徹二 理事長 2014年度 星川安之 評議員 〔表、終わり〕 障害者自立更生等厚生労働大臣表彰 主催:厚生労働省   表:更生援護功労者表彰 受賞年度 氏名 役職等 第62回 2012 富田清邦 評議員 〔表、終わり〕 塙保己一賞 主催:埼玉県   表:大賞 受賞年度 氏名 役職等 第4回 2010 長谷川貞夫 評議員 第14回 2020 富田清邦 評議員   表:貢献賞 受賞 年度 氏名 第9回 2015 社会福祉法人日本点字図書館 〔表、終わり〕   《84ページ》 点字毎日文化賞 主催:毎日新聞社点字毎日   表 受賞年度 氏名 役職等 第49回 2012 塩谷治 評議員 第52回 2015 田中徹二 理事長 〔表、終わり〕 岩橋武夫賞 主催:社会福祉法人日本ライトハウス   表 受賞年度 氏名 役職等 2018年度 田中徹二 理事長 〔表、終わり〕 近藤正秋賞 主催:社会福祉法人名古屋ライトハウス愛盲報恩会   表 受賞年度 氏名 役職等 第6回 2011 長岡英司 評議員 〔表、終わり〕 ヘレンケラー・サリバン賞 主催:社会福祉法人東京ヘレン・ケラー協会   表 受賞年度 氏名 役職等 第21回 2013 當山啓 元副館長 〔表、終わり〕 片岡好亀賞 主催:社会福祉法人名古屋ライトハウス愛盲報恩会   表 受賞年度 氏名 役職等 第11回 2016 立花明彦 評議員 〔表、終わり〕 鳥居賞 主催:社会福祉法人京都ライトハウス   表 受賞年度 氏名 役職等 第28回 2010 橋秀治〔たかはしひではる〕 評議員 〔表、終わり〕 社会貢献者表彰 主催:公益財団法人社会貢献支援財団   表 受賞年度 氏名 役職等 第41回 2011 橋秀治〔たかはしひではる〕 評議員 〔表、終わり〕 朗読録音奉仕者感謝の集い 主催:公益財団法人鉄道弘済会 社会福祉法人日本盲人福祉委員会   表:特別協力賞 受賞年度 氏名 第50回 2020 社会福祉法人日本点字図書館 〔表、終わり〕 サフラン賞 主催:社会福祉法人視覚障害者支援総合センター   表 受賞年度 氏名 役職等 第18回 2020 上田喬子 職員 〔表、終わり〕   《85ページ》 理事・監事 第31期 2012年5月30日から2014年5月29日 理事長 田中徹二 常務理事 伊藤宣真 小野俊己(2013.3.31退任) 天野繁隆(2013.4.1就任) 理事 大塚信一 岡村喬生 河幹夫 花島弘 日高由央 福山嘉照 三田誠広 監事 野田聖子 脇本千治   第32期 2014年5月30日から2016年5月29日 理事長 田中徹二 常務理事 伊藤宣真 天野繁隆(2015.3.31退任) 杉山雅章(2015.4.1就任) 理事 大塚信一 岡村喬生 河幹夫 田中敏雄 花島弘 日高由央 三田誠広 監事 野田聖子 脇本千治   第33期 2016年5月30日から2017年3月31日 ※制度改革により2017年3月31日で任期終了 理事長 田中徹二 常務理事 伊藤宣真 杉山雅章 理事 大塚信一 岡村喬生 河幹夫 田中敏雄 花島弘 日高由央 三田誠広 監事 野田聖子 福母淳治   第34期 2017年4月1日から2017年6月20日 ※制度改革により2017年4月1日から定時評議員会終了までの短期任期 理事長 田中徹二 常務理事 伊藤宣真 長岡英司 理事 大塚信一 岡村喬生 河幹夫 田中敏雄 花島弘 日高由央 三田誠広 監事 野田聖子 福母淳治   第35期 2017年6月20日から2019年6月21日 理事長 田中徹二 常務理事 伊藤宣真 長岡英司 理事 芦田真吾 大塚信一 岡村喬生(2018.11.14退任) 河幹夫 立花明彦(2018.11.15就任) 田中敏雄 花島弘 三田誠広 監事 野田聖子 福母淳治 第36期 2019年6月21日から2021年6月の定時評議員会終結時 理事長 田中徹二 常務理事 伊藤宣真 長岡英司 理事 芦田真吾 岡本厚 河幹夫 立花明彦 田中敏雄 花島弘 三田誠広 監事 君島淳二(2020.8.1就任) 野田聖子 福母淳治(2020.7.31退任) 《86ページ》 評議員 第24期 2012年5月30日から2014年5月29日 青木裕子 阿佐博 加藤真由美 河野康徳 榑松武男 塩谷治(2013.3.31退任) 橋秀治〔たかはしひではる〕 竹村實 立花明彦 富田清邦(石田一雄) 長岡英司 長谷川貞夫 花島弘 福島智(2013.4.1就任) 星川安之 本間一明 三田誠広 森美樹 山岡三治 山崎喜芳 渡邊岳 和波孝禧〔製作者注:「禧」について正しくは?(しめすへん)に喜という字。注、終わり〕   第25期 2014年5月30日から2016年5月29日 青木裕子 阿佐博 石橋迪子 加藤真由美 河野康徳 榑松武男 橋秀治〔たかはしひではる〕 竹村實 立花明彦 富田清邦(石田一雄) 長岡英司 長谷川貞夫 福島智 星川安之 本間一明 増渕路子 水野雅夫 山岡三治 山崎喜芳 渡邊岳 和波孝禧   第26期 2016年5月30日から2017年3月31日 ※制度改革により任期終了 石橋迪子 加藤真由美 河野康徳 榑松武男 迫田朋子 橋秀治〔たかはしひではる〕 立花明彦 富田清邦(石田一雄) 長谷川貞夫 福島智 星川安之 本間一明 増渕路子 水野雅夫 山岡三治 山崎喜芳 渡邊岳 和波孝禧   第27期 2017年4月1日から2021年6月定時評議員会終結時 新井直弘(2019.5.1就任) 石橋迪子 加藤真由美 榑松武男 迫田朋子 橋秀治〔たかはしひではる〕 立花明彦(2018.11.14退任) 富田清邦(石田一雄) 福島智 星川安之 本間一明 増渕路子 山岡三治 渡邊岳 渡邉廣之(2019.4.30退任) 和波孝禧 後援会長 阿刀田高 作家 《87ページ》 館長 表 氏名 在職期間 岩上義則 2002年7月1日から2011年3月31日 小野俊己 2011年4月1日から2013年3月31日 天野繁隆 2013年4月1日から2015年3月31日 杉山雅章 2015年4月1日から2017年3月31日 長岡英司 2017年4月1日から 〔表、終わり〕 定年退職者一覧 2010年4月から2020年3月   表 五十音順 氏名 在職期間 再雇用 天野繁隆 1979年4月から2015年3月 〔空欄〕 伊藤邦子 1974年5月から2012年3月 2012年4月から2017年3月 伊藤宣真 1978年11月から2017年3月 2017年4月から 植村信也 1982年4月から2015年3月 〔空欄〕 大坪和代 1977年4月から2015年3月 2015年4月から2020年3月 尾ア優子〔おざきゆうこ〕 1982年9月から2019年3月 2019年4月から 小野俊己 1977年2月から2013年3月 2013年4月から2018年3月 上野目玲子 1978年4月から2016年3月 2016年4月から2019年3月 川島早苗 1983年4月から2018年3月 2018年4月から 甲賀佳子 2001年4月から2018年3月 〔空欄〕 杉山雅章 1991年9月から2017年3月 2017年4月から 関口マサ子 1994年4月から2010年3月 2010年4月から2013年1月 園部勝美 1980年4月から2009年3月 2009年4月から2014年3月 松谷詩子 1991年4月から2018年3月 2018年4月から2020年3月 山下実 2000年4月から2017年3月 〔空欄〕 ※氏名は、旧姓使用の場合は旧姓で記載しています。 〔表、終わり〕   《88ページ》 当館に関連した書籍 不可能を可能に −点字の世界を駆けぬける−(岩波新書) 田中徹二著 岩波書店 2015年8月 読む喜びをすべての人に −日本点字図書館を創った本間一夫− 金治直美文 佼成出版社 2019年8月 当館が監修した書籍 もっと知ろう!点字 −点字の読み方から、歴史、最新技術まで− 日本点字図書館監修 ポプラ社 2017年4月 楽しくおぼえよう!はじめての手話と点字 2 点字 日本点字図書館監修 金の星社 2020年3月 楽しくおぼえよう!はじめての手話と点字 3 耳と目の障害を知ろう 東京都聴覚障害者連盟,日本点字図書館監修 金の星社 2020年3月 自費出版 見えない人の「読めるしあわせ」を叶えるために −日本点字図書館創立者 本間一夫の生涯− 日本点字図書館 2015年3月 本間一夫と日本盲人図書館 −本間一夫生誕百年記念出版− 本間記念室委員会編 日本点字図書館 2015年10月 点字にチャレンジ! −マンガでおぼえる点字のしくみ− 日本点字図書館 2018年8月 《89ページ》 編集後記 『プログレス』編集委員会委員長 長岡英司  視覚障害者を巡る状況は、近年大きく様変わりしました。その一つは、読み書きなどの情報アクセスに関する可能性の広がりです。情報・通信技術の発達と普及が、それをもたらしました。例えば、点字や録音は、デジタル化で利便性が著しく向上しました。また、音声読み上げ機能を備えた情報機器を利用することで、限定的ながら墨字のデジタルデータを視覚を介さずに読み書きできるようになりました。インターネットを使えば、データのやり取りや情報の入手を迅速に行なうことが可能です。しかしながら、情報環境の変化によって、視覚障害者の周辺に新たな課題も生まれました。そのため、当館には、より高度できめ細かなサービスが求められるようになりました。  一方、法律の整備などによる社会制度の充実も、視覚障害者に大きな変化をもたらしました。国連障害者権利条約を日本が2014年に批准したことに伴って国内法の整備が図られ、障害者差別解消法が施行されたほか、関連する法律が改正されました。その結果、社会の各分野で障害者への対応の在り方が見直され、視覚障害者も社会参加の可能性が広がりました。それとともに、必要とされる支援の多様化が進んだことから、当館ではその変化に応じる取り組みの推進が、重要な課題となりました。  こうした背景の下、この十年の当館は、「情報・通信技術の今後の進展を見据えた体制の整備」、「利用動向を踏まえたサービスの適性化」、「ニーズの広がりに応じた新規事業の導入」に力を注ぎました。また、当館の伝統とも言える「蓄積したノウハウや資料を活かした社会貢献と社会啓発」を続け、時代に即した形態への進化を図りました。本書の製作にあたっては、この視点に基づいて十年間の事業やサービスを振り返りました。編集作業には和田勉、井上奈津子、竹中準の3人があたりましたが、その中心的役割を担った和田が最終の取りまとめを行なっていた2021年1月に急逝したため、伊藤宣真が後を引き継ぎ、完成に至りました。  本書の名称中の『プログレス』(「前進」の意)の語は館内から寄せられた約30件の提案から選定されたものです。当館の将来にとって重要な意味を持つサピエの発足が2010年だったことなどから本書の対象期間は厳密には2010年から2020年までの11年になりましたが、切りの良い年数を採って「十年」という語を名称に組み込みました。  私たちは、当館先輩諸氏の尽力の様子を歴代の記念誌等からしっかりと知ることができます。それと同じように、本書がこの十年間の取り組みの実際や、それを支えてくださったご助成等の意義を後世に確かに伝える役割を果たせることを、切に願う次第です。 執筆者一覧(五十音順) 市川弘美:2.(2)@・A・C 伊藤宣真:3.(3)・(4)、4.(2)C・(3)@・A・(4)、6.(2) 尾ア優子〔おざきゆうこ〕:2.(2)F 片桐麻優:2.(2)D 澤村潤一郎:1.(2) 杉山雅章:3.(2)、4.(3)B 勢木一功:1.(1)、2.(1) 内藤牧:2.(3)、3.(1) 野村勝之:5.(1)・(2)・(3)、6.(1) 橋本幸子:2.(2)E 藤澤典子:2.(2)B 和田勉:2.(2)G、4.(1)・(2)@・A・B 「プログレス」編集委員会 委員長 長岡英司 委員 和田勉 伊藤宣真 井上奈津子 竹中準 原本奥付 日本点字図書館創立80周年記念誌 プログレス 明日(あす)のサービスを築いた十年 2010-2020 2021年2月1日 発行 編集 「プログレス」編集委員会 発行者 田中徹二 発行 社会福祉法人日本点字図書館 〒169-8586 東京都新宿区高田馬場1-23-4 電話 03-3209-0241(代表) URL https://www.nittento.or.jp/ テキスト奥付 プログレス 明日のサービスを築いた十年 2010-2020 日本点字図書館創立80周年記念誌 製作 日本点字図書館 製作完了 2021年5