日点自立支援室ニュースレター Vol.13 2024年冬号 1ページ目 ◯ごあいさつ   2024年が始まりしばらく経ちました。元旦から能登の大地震、翌日の羽田の飛行機事故と大変な年明けになってしまいましたが、皆さんどのようにお過ごしでしょうか。今回のことで、平時から災害に備えておくことの重要性を再認識されたかたも多いかと思います。   視覚障害者の場合、災害時に支援を受けられるよう、自治体の災害時要援護者名簿に登録しておくことがまず大切です。また地域の視覚障碍者団体や社会福祉協議会等ともつながりを持っておくことで、支援を受けやすくなります。避難所の場所がどこなのか、そこまでの道順と、どうやって行くかを把握しておくことも必要です。地域の防災訓練があれば積極的に参加されることをお勧めします。   災害時の持ち出し品のリストアップも大事です。白杖や携帯電話(充電器もセット)、障害者手帳、持病の薬、現金などなど、何が必要になるかを整理して準備しておくと良いです。分からないことがあれば自立支援室のスタッフにご相談ください。  さて、今回のニュースレターでも様々なお役立ち情報を紹介します。どうぞお楽しみください。 (島田 記) ◯歩行訓練のすすめ⑤ -技術書に描かれた歩行訓練- 現在世界中で行われている歩行訓練の発祥地はアメリカです。そのアメリカで出版されている歩行訓練の技術書(THE ART AND SCIENCE OF TEACHING ORIENTATION AND MOBILITY TO PERSONS WITH VISUAL IMPAIRMENTS)に記されている歩行訓練の内容について、今回はご紹介したいと思います。すでに歩行訓練を受けた方には、訓練に携わった訓練士がどのような研修を受けて訓練士になったのか想像してみていただけたらと思います。訓練の時には意味の分からなかったことが、ひょっとしたら分かるかもしれません。今回は歩行訓練の概観がテーマです。 歩行訓練とは何か? 歩行訓練は英語で「オリエンテーションとモビリティ」と表現されています。 オリエンテーションとは残存感覚を使い環境の中における自分の位置を理解する能力を指します。モビリティとは動く能力を意味します。そこで「オリエンテーションとモビリティ」とは、視覚障害を持った人が安全で効率的に美しくどんな場所でも、いかなる状況下でも歩くのに必要な概念、技能、技術を教授することを意味しています。 歩行訓練の概観:全体論的アプローチ 歩行訓練は技術であると同時に科学だと言えます。オリエンテーション技能とモビリティ技能をどのように、いつ指導するべきかを判断することは、訓練のプロセスの核心と言えます。訓練生が自身の方向が分からなくなった時にいつ介入するべきか、いつ訓練生がその問題を切り抜けるように見守るべきかは、訓練の際に指導員が常に直面するディレンマです。 指導員は技能を教えるだけでなく、訓練生が自分の歩く能力に自信を持ち、そして自分の行動に責任を持ち、自分が決定した結果を受け入れられるようになるように、訓練を発展させなければなりません。訓練は可能であれば、訓練生の居住地域で行われ、そして訓練生各個人の個別のニーズを満たすものに発展させるべきです。もしそれが不可能な場合は、訓練は可能な限り訓練生の居住地域に相当するような場所を選び、訓練生がその環境で学習したことを転移(他の場所で再現)できるようにするべきです。さらに追加的な訓練として、訓練生が知らない地域へも出かけられるような訓練を計画するべきです。  歩行訓練のプロセスは晴眼者と一緒に歩く方法を学ぶ、外見上は単純な段階から始まります。晴眼者を利用することで、訓練生は正当な理由がある状況下で他人からの援助を受け入れることを学習するだけでなく、自身が歩いていく近隣の状況について質問をし、その結果別の機会に単独で帰ることができるように援助を利用する方法も学びます。さらに、訓練生は手引き(ガイド歩行)に満足できない場合は、断ることができます。訓練生は単独で(あるいは互いに依存しながら)様々な環境の中へ(あるいは中を)歩いていくことを学習します。彼らが経験を積み、これらの状況にさらされるほど、自分の行動に責任をもつために必要な技能を獲得していき、そして方向を失ったときに問題を解決し、他の人の援助をほとんど借りずに、あるいは全く借りずに再定位できるようになるための技能を獲得していくのです。  これらの技能を指導するめには、訓練生が日常生活において抱えている様々な問題を知る必要があります。なぜなら、訓練士が提供しようとしている技術が訓練生のニーズを実際に満たすことができなければ、技術習得に対するモチベーションが高まらず、実際に利用する機会もなく、結果的に訓練効果が得られにくくなるからです。 いわば、訓練生の実際の生活環境で訓練を行ったときに、訓練生が指導に行き詰まりを経験する理由を理解することができると言えます。訓練士はオリエンテーション技能を移動技能と一緒に指導することは必ずしも守られるべきものではないことを心に留めておくべきでしょう。その二つの技能は同一歩調で進んで行きますが、訓練生がその二つを統合し、そして同時に使えるようになるまで、最初はそれぞれ個別に指導するべきです。例えば、タッチテクニックのような特定の技術を指導するときに、訓練士はその技術がどのようにして獲得できるか、その方法に意識を集中します。訓練生は杖を振る動作と、そのリズムに歩調を合わせて歩くことを何度も練習し、その技術が十分身に付くまで繰り返します。その後に訓練士はオリエンテーション技能の訓練を導入します。例えば、訓練生はタッチテクニックを適切に使いながら廊下を歩いて行くだけでなく、歩きながら方位やランドマーク(目印)を確認するように求められるかもしれません。訓練士が訓練生にオリエンテーションに関するクイズ(例えば、「現在の進行方向は南ですが、右の方位は何ですか?」など)を出すと、訓練士は訓練生の白杖技能がまだ不完全であったことに気づくかもしれません。それはまだ訓練生が白杖技術を十分に獲得していないか、訓練生が運動技能と認知技能を同時に使いこなすゆとりがないかのどちらかだと考えられます。以上のことから(当然のことながら)、訓練生が達成できる課題の水準は、訓練の開始時期と終了時期では異なることを意識するべきです。訓練生が運動技能を認知技能と統合できたとき、訓練生は特定の技能を習得したと安心して言うことができるでしょう。要約すると、訓練士は、訓練生は言うまでもなく、歩行訓練の指導方法についても全体論的に見なければならないと言えるでしょう。         (小林  記) ◯エンジョイ!ブラインド・ロービジョンライフ -物を探すあれこれ- 何か物をなくしてしまい、探すのにとても苦労した…といった経験は、おそらくどなたにもおありなのではないでしょうか。そこで今回は、ものを探す際の工夫や、できるだけなくさないようにするにはどうすればいいかなどについて話し合ってみました。 菊池: 私はよくスマートフォン(iPhone)を何気なくその辺に置いてしまい、後で探すときに苦労するのですがみなさんは何か工夫などされていますか? 池松: 私もスマホはついついなくしてしまうので、そういったときにはSIRIを使っています。SIRIはあらかじめ設定しておくと、ボタンを押さなくても「へーい、SIRI!」と呼びかけると反応してくれるので、 「へーい、SIRI、どこ?」 と呼ぶと「私はここにいますよ」と答えてくれます。ただ、これだけだと聞き取れない場合もあるので、「5秒のタイマーをセットして」のように言って短いタイマーをセットすると、タイマーのアラーム音で見つけやすくなりますね。 菊池: なるほど。ただ、イヤホンをつけていたり事前に設定をしていなかったりすると、SIRIは使えない場合もありますよね。 松谷: お家に固定電話があれば、固定電話からスマホに電話を掛けたり、家族のケータイを借りることもできそうですね。 私は、できるだけなくさないように置く位置を必ず決めておくようにしています。自分が使う場所は限られてくるので、例えば自分の部屋であれば机の角、キッチンであれば棚のこの位置のように、自分が使いそうな場所ごとに置く位置を決めておくとなくしづらいです。 あとは、スマホを置くための小さなトレイなどを用意しておけば、よりなくしづらいかもしれませんね。 池松: 確かに。スマホではありませんが、私はテレビやエアコンのリモコンを100円均一で買ったリモコン立てに立てておくようにしています。リモコン立てを動かさないよう意識しておけば、苦労せず見つけられて便利です。 松谷: 私も置き場所はきちんと決めるようにしています。エアコンや照明のリモコンは、壁に固定できるようになっていることもあるので、そこから動かさないようにするという方法もありますね。 池松: なるほど。一緒に住んでいる家族がいる場合には、家族にも所定の場所に戻してもらうようにすることが大事になってきますよね。 松谷: そうですね。ずっと一緒に住んでいれば意識してもらえると思うのですが、たまにやってくる人の場合にはなかなか難しいです。 菊池: 私の自宅には時々姪や甥が遊びに来るのですが、そうするといろいろなものが知らないうちに移動していて困ります(汗) 特にティッシュペーパーは見つからないと困るので、最近は自分のベッドのところに自分用のティッシュ箱を置いておき、もし家族で使っているものが見つからなくても自分用を使えるようにしています。 その他にも、エアコンは複数の部屋で同じような機種を使っている場合が多いので、もしどうしてもリモコンが見つからず困ったときは他の部屋のものを使うという方法もありますね。 池松: なるほど、いろいろな工夫がありますね。 つづいて、アクセサリーや文具など、細かな物もなくしやすかったり整理がしづらかったりすると思うのですが、そういった際の工夫などについてはいかがでしょうか? 菊池: やはりいろいろな容器や引き出しに入れて整理するのが良いかなと思います。特に引き出しは便利なのですが、中が広いと物が散らばってしまうので、うまく仕切りを作れると使いやすくなります。 松谷: そうですね。100円均一で売られているトレーのようなものを引き出しの中に入れると、簡単に仕切り代わりになるので便利です。特に、ある程度小さめのトレーを複数入れると、整理がしやすくなりますね。 菊池: 入れる物がある程度決まっていれば、そのサイズを意識してトレーを買うと良いですよね。また、もし引き出しのサイズにぴったり合わなくても、隙間もうまく使えばその分収納にもなります。 松谷: そうなんです。 また、最近知ったのですが引き出しの中の収納には靴の空き箱もとても便利です。靴箱は固い紙が使われているので頑丈ですし、ある程度の大きさがあるので中の整理がしやすいです。 特に、タンスの中の靴下やハンカチなど細かいものはついつい散らばりがちになってしまいますが、靴箱を入れてその中にしまうときちんとまとまりますし、複数の箱を使えば整理もできてとても便利ですよ。 池松: なるほど!そんな方法もあるんですね。 靴を買ったときの箱はいつも捨ててしまっていたのですが、これからは便利に使ってみたいと思います。 【終わりに】 探し物やものの整理についてはなかなか悩ましい課題ではありますが、ちょっとした工夫や意外に身近な道具で解決する場合もあるかもしれません。「私はこうしているよ」といった情報もぜひお待ちしております! ◯便利グッズ紹介!! ★「杖ピタッと」 杖の転倒防止に! (株)大創産業 ●直径16ミリ・19ミリの杖に対応 Daiso 110円(税込み) ※ご案内の商品は、訓練生S様から ご紹介、ご寄贈いただきました。 ★デュアルプラス トレー グリル・オーブントースターで 簡単クッキング 高木金属工業(株) ●フッ素加工でこびりつきにくい ●アルミニウム製だから水洗いしてもサビにくい ●余分な油が溝に落ちてヘルシー調理 ●商品サイズ約(幅)248×(奥行)209×(高さ)20mm ●商品重量約108g ●日本製 楽天市場 767円+送料500円  ヨドバシカメラ、モノタロウ(通販サイト) ほか ※ご案内の商品は、訓練生H様から ご紹介いただきました。 ◯毎日の生活で見えない、見えにくいことで生じる お困りごと つぶやきコーナー -横断歩道でのできごと- *信号機のない横断歩道を通ることが多く、声をかけていただけると安心して渡れます。 声をかけて教えてくださる方は多いですが、無言で渡ってしまう方もいるので、隣に人がいる気配を感じると私のほうから「青になったら教えてください」と行動を起こしています。 横断中歩道場所に車が止まっている場合、歩行者がいれば声をかけてくださり渡れるのですが、歩行者がいない場合、車側が窓を開けて声の誘導をしてくれれば渡ることができます。ただ横断途中に止まっている車は、窓を開けず声もかけず見ているだけのことも多いですね・・・ みなさんはどうされていますか?工夫やアイデアがあればお知らせください。 仲間と共有して気付くことがあるかもしれませんね。 つぶやき/コメントにご協力いただいたみなさま、ありがとうございました! (和田 その他スタッフ 記) ◯スマホ操作のき・ほ・ん No.3 -ボタンの押し方も、画面の触れ方もいろいろ- 前回は、画面を順番に読ませるスワイプと、決定するダブルタップ、この2つの基本ジェスチャーの重要性とポイントをお伝えしました。今回は、ボタンの押し方と画面の触れ方について説明します。 まず、ボタンの押し方について説明します。 スマホのボタンというと電源や音量調節ボタン、機種によってはホームボタンなどがあり、凹凸がわかりやすいものからわかりにくいものまで機種によって様々です。 押すという操作には「短く(軽く)押す」と「長めに(強めに)押す(長押し)」の2つがあり、ボタンを押すというのは「短く(軽く)押す」動きを指します。 iPhone SEなどホームボタンがある機種の場合、ホームボタンを短く押すとホーム画面に移動し、長押しするとSiriが起動しますが、慣れないうちはSiriが起動してしまった経験をお持ちの方が多いかと思います。音量を少しだけ調整するつもりが誤って長押ししてしまって急激に大きく・小さくなってしまった方もいるでしょう。 パソコンやガラケーのキーボードを長押しすると同じ文字が連続入力されてしまうように、ボタンは押す力や押している時間によって動作が変わるので、使い分けられるようにコツをつかむ必要があります。また、ボタンを押す際に、たたく(タップ)動作にならないようにしましょう。 ボタンを短く押すときはボタンに指を置いたらなるべく肩や指先の力を抜いて、クリッという微細な振動を指で感じつつ素早く押すと良いです。グリー!っと強めに押してしまうと長押しになりやすいです。 なおiPhoneのホームボタンが見つけづらい、指をボタンの真ん中に合わせづらいという方は凸点シールを貼るなど工夫するとわかりやすくなります。 続いて画面の触れ方について説明します。 画面上を音声で読ませる方法として、1つずつ読み上げさせていくスワイプとは別に、画面上を指でなぞるという方法があります。画面上をなぞると触れた(タッチした)部分に書かれたテキストやボタン名等を読み上げます。 なぞって画面を読み上げさせるメリットはどうしてもスワイプがタッチとして認識されたり、うまくできないという方も指を画面上で動かす方がやりやすい点です。デメリットとしては、画面上を規則正しくなぞならないと押すべきボタンやアイコンが小さいと見つけられなかったり、文章を順序通りに読めないなど情報取得に漏れが生じる可能性があります。ただ、文章は画面横いっぱいに表示されていることがほとんどなので、なぞって文章を読み上げさせるだけなら指を画面上部の真ん中に近い位置から下にまっすぐ下ろす方法でも大丈夫です。 また、もう一つのデメリットとして、画面をなぞっている間に別の指が画面に触れてしまうとスプリットタップになり予期せず画面が反応してしまう点です。なおスプリットタップは押したいボタンに指を置いた状態で別の指で1回タップするとボタンを実行できる指の動かし方です。 上記の点から、画面をなぞる際のポイントとしては、①指を画面に対して立て気味にして指以外の手が触れないようにする、②画面を漏れなく確実にたどりたいときはムラなく雑巾がけをするようになぞる、という2点です。 今回は押す、なぞるという操作について説明しましたが簡単なようで繊細な感覚を必要とする大事な基本操作ですのでしっかり練習しましょう。 (清水 記) 終わり