日点自立支援室ニュースレターVol. 14 2024年春号 目次 ごあいさつ・・・2 歩行訓練のすすめ・・・3 便利グッズ紹介!!・・・6 つぶやきコーナー・・・8 エンジョイ!ブラインド・ロービジョンライフ・・・11 スマホ操作のき・ほ・ん・・・14 -2- ごあいさつ 桜の季節も過ぎ、新年度に入って数週間が過ぎました。皆さんいかがお過ごしでしょうか。さて、新年度は4月はじまりについて、年は1月から始まるのに、どうして年度は4月からと疑問に思われたことはないでしょうか。年度とはそもそも「事務などの便宜のために区分した1年の期間」の事を言います。4月スタートの年度がどういった目的で定められたかというと、国や地方公共団体の歳入と歳出のくぎり、つまり会計年度が4月1 日から3月31日までと決められていることが元になっています。 会計年度が初めて制度化されたのは明治2年なのですが、この時は10月始まりだったそうです。その後、明治8年からは7月始まりとなり、明治19年からやっと今と同じ4月スタートとなったようです。これに合わせて、国や県から補助金をもらっている学校も4月入学となったとのこと。日本人としては、3月は卒業、4月は入学や入社というのが定着していますが、海外では学校の多くは9月スタートなので、日本の年度は世界で見ればマイノリティということになります。とはいえ、3月から4月に掛けての桜が開花して散っていく時期は、別れと出会いの季節ということで日本人には肌感覚として染み込んでいると思います。私も、4月からは自立支援室の専任ではなくなったので、この巻頭文も最後になります。今まで長い間、拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。次号からは後任の市川が担当いたします。引き続きよろしくお願いいたします。 さて、今回のニュースレターでも様々なお役立ち情報を紹介します。どうぞお楽しみください。 (島田記) -3- 歩行訓練のすすめ⑥ -過剰学習の概念- 私たちが物事を学習する時に、「基本を繰り返し練習するように」と言われることがあると思います。練習の時に「できた」と思っても、実際の生活場面でできない経験をすることがあるからです。できたと思っても、重ねて繰り返し練習することを英語ではオーバーラーニング(overlearning)と言い、直訳すると「過剰学習」という意味になります。今回は前回に引き続き、米国の歩行訓練の専門書に書かれた歩行訓練の過剰学習の必要性についてご紹介したいと思います。なぜ同じことを、くどいくらい繰り返し練習をさせられるのか、その理由が述べられています。 THE CONCEPT OF OVERLEARNING (過剰学習の概念) 運動技能を学習する時には、はじめに学習する内容を構成要素に分解します。土台部分になるもの、その土台の上に載るもの、さらにその上に載るものを明らかにして、それらを確実にひとつずつ、習得できるまで繰り返し学習してもらいます。言葉を換えれば、各構成要素は一つまえの要素(技能)に立脚しており、その状態は学習が完了するまで続きます。そのようにするために、訓練士は目標とする運動技能に含まれる課題を分析し、それを小さな課題に分解し、そして訓練生が課題全体を学習するまで、小さな構成要素を一つずつ指導していきます。 訓練士が訓練生にタッチテクニックを使った杖の振り方を指導するとき、次の課題に進む前には以下のことができるようになっていることを確認します。例えば、「確実に縁石や階段の落ち込み、路上の障害物等を発見できるようになること」を課題とした場合の学習内容(要素)は以下の内容になります。 (1)指導した方法で白杖を握ります。(2)正中線(身体の中心線)上で腰の高さで握ります。(3)白杖を体の最も広い部分をカバーするように、路面を掃くように振ります。(4)歩くときには、白杖の石突を最も遠い地点で、身体の片側で軽く路面にタッチします。それぞれの足が地面に触れるときに、踵が白杖の石突と同時に(リズミカルに)触れます。白杖の石突は、次の足を運ぶことが想定される場所に触れます。 この技能は多くの微細運動および粗大運動技能によって行われます。前述のように分析された運動技能の構成要素は連続的に指導されることになります。もしある一つの要素が十分に習得されずに次の段階に進んでしまうと、段階が進むほど次第に困難を伴うようになるでしょう。例えばもし白杖を不適切に握ったら、指と手首で白杖を押す繊細運動が適切にできない事態になるでしょう。その結果、腕全体を動かして白杖を振ったり、手首を回転させて白杖を振るようになるかもしれません。白杖を振る際に手首が回転したら、白杖の石突が地面から5cm以上も浮いてしまい、その結果縁石や段差の発見が難しくなり、段差につまずいたり階段を踏み外したりして怪我をする結果になるかもしれません。 訓練士はまず白杖の握り方から指導を始めます。訓練生が杖の握りを快適だと感じたら、白杖を握った手首の位置について、身体の中心線上で腰の高さの位置を維持するように伝えます。訓練生と向き合い、訓練士は訓練生の手首を優しく握り、訓練生からの反動を感じなくなるまで適切な位置に固定するかもしれません。訓練生が白杖を振るときに、訓練士は訓練生の正面に脚を開いて立ち、自分の足の内側にチップを押し当てるように振ってもらうことがあります。訓練士の脚の幅は、白杖の弧の最も広い部分に相当するように開きます。この状態での操作が上達したら、チップで訓練士の足に軽く触れる様に白杖を振ってもらい、手首を訓練士が固定しない状態で振ってもらいます。訓練生がこれらの技能を獲得したら、訓練士は訓練生の前から離れ、杖を振るときに言葉だけによるフィードバックを提供します(「もっと広く」、「少し狭く」など)。 訓練生が運動技能を確実に獲得するためには、訓練士は訓練生に対して過剰学習をする援助をすることが必要です。それは、訓練生が予想以上に上達したことを示すための機会を提供することだと言えます。例えば、もし訓練生が歩調とリズムを崩さずに廊下を10回歩くことができると信じるのなら、訓練士は訓練生に、さらに5回歩くように求めることがあります。その際の集中力、鍛錬そして訓練は訓練生の過剰学習として機能し、その結果必要なときにいつでも必要な技能を実行するのに必要な運動感覚を発達させることが可能になるのです。 過剰学習の概念はすべての運動技能に重要なものと言えます。もし過剰学習の過程がなければ、訓練生は自身が必要とするときに、必要な技能を常に再生できるようにはならないでしょう。例えば、タッチテクニックを行う際に、多くの視覚障害者が白杖の持ち手を中央よりも利き手側にずらしてしまい、その結果、利き手側と反対側の防御がなくなり、利き手と反対側の足を縁石や階段から落とす危険が生じています。 (小林 記) -6- 便利グッズ紹介!! -「紙袋を利用した引出し整理用の箱の作り方」- 衣類の引出しでは、靴下・ハンカチ・下着など、外出用の持ち物では、財布・定期入れ・鍵・身障手帳など、どこのお宅にもある引出しは、モノを収納するのに大変便利なものです。しかし、引出しの中が見えないために、モノを探すのに苦労する経験をお持ちの方も多いと思います。 そこで、マチ付きの紙袋を利用した箱の作り方をご紹介します。お手元にある紙袋で一つ作ってみましょう! 用意するもの 1. マチ付きの紙袋(大きさ自由) 2. 定規(手や指でも代用可能です) 3. ハサミ(カッターなど紙を切る道具) 作り方 1. 紙袋を広げ(モノが入っている状態にして)、入れるのに適当な引出しをきめる。 (例えば、大きければ衣類の引出し、小さければ机の引出しなど。) 2. 引出しの深さを測る。(定規でなくても、指などを使ってもOK) 3. 紙袋をたたみ、底を下にして、底の線が手前に来るように机に置く。 4. 底の線から、測った引出しの深さの二倍の距離で紙袋の上部を手前に折る。 (注意: 出来上がった箱の高さが引出しの深さより約1センチ低くないと引出しが引っかかるので、加減してください。) 5.手順4の折り目が水平であることが大事です。袋の左右に触れて折り返した部分が、はみ出ていないかを確認してから、しっかり折る。 6. 折り目から上部を切り落とす。 7. 紙袋の底の短辺を下にして机に立て、紙袋の側面を内側に軽く折り込み、紙袋の縁がきちんと底の角についていることを確認して、折れ目を側面の幅だけしっかりつける。(反対の側面も同様にする。) 8. 底の長辺を下にして7と同様に折り、箱の出来上がり。 出来上がった箱は、箱としては頼りないものですが、引出しの仕切りと考えてください。 異なる大きさの紙袋が手に入ったら、作ってみましょう! 新しい用途を考えるのも楽しいものです。 ※ご案内の情報は、O様からご紹介いただきました。ご協力ありがとうございました。 -8- つぶやきコーナー 毎日の生活で見えない、見えにくいことで生じるお困りごとはありませんか? -ロービジョンのみなさんと視覚障害スタッフを交えての座談会から- 買い物 ・最近店員が少ないですよね。 ・ケーキ屋さんとかガラス越しが見えないから、ガラスに張り付いて「目が悪いので」と言っています。 ・肉の種類とか分からないのでパックに顔を近づけて確認しているけど、周りは気になります。 ・スマホで撮影するのも抵抗ありです。 ・あさりと巻貝を間違えたことがあります。 白杖 ・私は少し見えるけど常に出して使用しています。 ・駅の乗換や池袋など混雑する場所で出す感じ。 ・片手がふさがるので家の近所で買い物する時は使っていません。 声掛け ・案外、子どもが親切に声をかけてくれます。学校で体験学習するところもあるみたい。 ・電車に乗る時に急に引っ張られたことがある。親切なんだけど一言あると良いのに。 路上駐車 ・日点の前の通り、早稲田通りからの坂の途中によく停車している。白杖当てちゃうよね。 階段の縁 ・特に下り階段はわかりにくくて怖い。 便利アプリの活用 ・広い道や慣れない横断歩道で状況確認のために使うことがあります。 ・出勤時はイヤホンをして「アイナビ」を立ち上げてから出かけています。 ・赤い看板を赤信号と間違うことがあるため、今後活用してみたい。 お店のサービスカウンター ・買い物を手伝ってくださいと頼んでいます。 ・同じ店に同じ時間帯に行くことで顔なじみになるとサポートしてもらいやすいですよ。 ・デパートにはコンシェルジュサービスというのがありますね。 家庭での困り事 ・家族に細かいことを指摘されますね。皿の洗い残しとか。顔の向きとか(中心が見えないので目の端で見ようと顔を横に向けるため)。 ・テレビのリモコン操作が難しい。 チャレンジ!やってみたいこと・始めたこと ・習字。 ・STT(サウンドテーブルテニス)。公共の施設でも台が置いてあるところがありますよ。 旅行 ・宿は駅から徒歩5分以内だと便利です。 ・小さめの宿だと細かい対応をしてくれる可能性があるので、客室数とか確認して予約しています。 ・大浴場内の様子は事前に確認できる時は聞くと良いですよ。 ご協力いただいたみなさま、ありがとうございました! (和田その他スタッフ 記) -11- エンジョイ!ブラインド・ロービジョンライフ -書類の整理あれこれ- 今回は、紙の書類の整理について話し合いました。紙に書かれた文字は、スマホのアプリや専用の機械で大まかな内容であれば読むことができる場合もありますが、それらをうまく整理して保管しておくにはどんな工夫があるのでしょうか。 池松: 私は、役所から届く書類や家電の説明書など、自宅で保管しておかなければいけないような書類を整理するのが苦手で、ついつい「あの書類ってどこにしまったかな?」と困ってしまうことが多いのですが、お二人はどんな工夫をされていますか? 菊池: 私はクリアファイルを使って整理しています。例えば、公共料金の領収書はこのファイル、役所からの通知はこのファイル、家電の説明書はこのファイルのようにカテゴリ分けして整理しておけば目的のものを見つけやすくなります。 松谷: 私もクリアファイルはよく使っています。複数のファイルが一つにまとまって、アルバムのようになっているものもあって、それであれば細かく整理できて便利ですね。 池松: 確かに、100円均一などに行くといろいろな形のクリアファイルがありますね。私も、中にいくつか仕切りの紙が入っていて、書類を仕分けできるようになったものを使っていたことがあります。 菊池: サイズもいろいろあるので、はがきや封書、年金手帳のようなA4以外のサイズのものは、小さめのケースに入れておくとしまいやすいです。 池松: 確かに。あとは中に入っているものがわかる印をどうつけるかですが、これもいろいろと方法がありそうです。 菊池: 点字を使っている方であれば、点字用のテープに簡単に中身を書いて貼り付けておくのが手軽でしょうか。 池松: そうですね。点字を使っていない方でも、触ってわかるシールを貼る方法もありますね。貼る場所や個数をうまく工夫すれば自分なりにわかりやすい印になると思います。 菊池: 最近では、専用のバーコードに情報を書き込み、後で確認できる「ナビレンス」というスマホアプリもありますよね。これをうまく使えば、例えばクリアファイルの中の書類のタイトルをバーコードに記録しておき、そのコードをファイルに貼り付けておけば、後でスマホを使ってコードを読み取ることで中身を確認することもできそうです。 松谷: なるほど。機能は似ていますが、ペン型のICレコーダーで、専用のシールにペン先を当てて内容を録音しておき、後で同じシールに触れると内容を再生してくれる「デジタルボイスレコーダーG-Speak」という機器もあります。こちらはわくわく用具ショップでも販売しています。 池松: いろいろな便利グッズを使うという方法もよさそうですね。ただ、私はめんどくさがりなので、ついついシールを作ったりするのを忘れてしまいそうです(汗) 菊池: そういう場合には、やはり手の感覚を頼りに書類を仕分けるアナログな方法が良いかもしれませんね。 池松: 確かに、通常の書類と、取扱説明書のような冊子では厚みも違いますし、クリアファイル自体もいろいろな手触りや形のものがあるので、それらをうまく使い分ければある程度整理できそうです。 松谷: 最終的には自分がきちんとわかることが大事なので、自分なりにいろいろと工夫してみると良いと思います。 【終わりに】 今回の内容、いかがだったでしょうか。話題の中で登場したスマホアプリやICレコーダーについて詳しくお知りになりたい方は、訓練時などに支援員へお尋ねください。 -14- スマホ操作のき・ほ・んNo. 4 -ガイド音声を最後まで聞こう- 「スマホ操作のき・ほ・ん」コーナーも4回目となりました。第1回から3回までは、画面を読み上げさせてスマホを操作する際に、正確かつ効率的に画面をスワイプしたりなぞるためのポイントをお伝えしました。 スワイプやダブルタップなどの基本的な指の動かし方が正確にできるようになると、他の色々なジェスチャーがわからなくても画面の内容を把握できるようになり、基本的なアプリの操作ができるようになってきます。 ただ基本ジェスチャーができていても、不慣れなアプリでガイド音声を最後まで聞かずにどんどん読み進めてしまうとどこを読んでいるかわからなくなったり、操作につまづいてしまうことがあります。使い慣れたアプリで次に押すべきボタンの位置もわかるなら軽快にスワイプするのは良いのですが、最初は焦らず音声を最後まで聞いてから次の操作に移ることがポイントです。 iPhoneのボイスオーバーとAndroidのトークバックでは画面のレイアウトの違い等によってガイドの仕方に若干違いがありますが、読み上げ方は似ています。 まず、ガイド音声の最後に何も読み上げない標準テキストや見出しに指定されたテキストはダブルタップしても特に反応しません。音声を最後まで聞かないでリンクだと勘違いして何度もダブルタップして反応しないと悩んだり別ページが開いたと勘違いしてしまう場合もあります。 一方で、ガイド音声がカーソル部分を読み上げた後に「ボタン」「リンク」、「テキスト(編集)フィールド」等と読み上げるボタン(以下、各種ボタン)は、ダブルタップすると実行できることが多いです。 ボタンによっては、ダブルタップするとどうなるかというヒントを読み上げてくれます。 たとえば、検索ボックスなどのテキストフィールドにカーソルがあたると、「テキストフィールド、ダブルタップして編集」のようにヒントを読み上げます。ヒントを最後まで聞くことで、ボタンをダブルタップすると検索ボックスを編集できることがわかります。他にも「値を調整するには1本指で上または下スワイプ」などのヒントも操作方法を知るのに役立ちます。各種ボタンのガイド音声を最後まで聴くのに時間がかかるのでせっかちな性格だと焦れったくなるのもよくわかります。慣れてきたらヒントを聞く前に操作できるようになります。また、音声を聞かないと突然出てきた広告画面等を閉じる際にOKや閉じるボタンしか表示されていないのに音声を最後まで聞かずにスワイプを繰り返し広告を閉じられずに困ってしまうこともあります。 もし、ヒントを読んでくれない場合はiPhoneの場合は設定→ アクセシビリティ→VoiceOver→詳細度と進み、「ヒントを読み上げる」のスイッチをオンに、Androidの場合はTalkBackメニュー→TalkBackの設定→読み上げの詳細設定→「使用に関するヒントの読み上げ」をオンにしましょう。最後に、ヒントを聞いているとポップアップウィンドウなど人によっては何のことかわからない言葉が出てきて戸惑うことがありますが、そのような場合はSiriやGoogleアシスタントに「ポップアップウィンドウって何?」とまずは質問してみましょう。その先の操作がわからない場合はまずは落ち着いて画面を丁寧にスワイプで確認したり上下スワイプで実行できるメニューを確認して試行錯誤すると、理解が深まります。 (清水 記)