1 日点自立支援室 ニュースレター Vol. 18 2025年春号 目次 ごあいさつ・・・2 エンジョイ!ブラインド・ロービジョンライフ・・・4 便利グッズ紹介・・・9 スマホと歩行・・・10 点字ブロックよもやま話・・・15 2 ごあいさつ 2025年度が始まり、ひと月が経ちました。4月初頭は真冬のような寒さでしたが、中頃から初夏のような陽気になりましたね。当館の桜「春めき」は、やわらかな若葉が枝を隠すほど豊かに茂っています。お隣では、ジャスミンが満開で濃厚な甘い香りを放っています。 この季節、風に揺れる新緑や花の香りを感じながら歩くのは、やはり気持ちの良いものですね。気候のせいでしょうか、町の喧騒や遠くに聞こえる電車の走行音も心なしか軽やかな響きに感じます。 春は新たな始まりの季節。我が家にも“新たな始まり”がありました。息子が社会人となり、九州に赴任、自立生活を始めました。夫は息子と共通の趣味だったサウナや温泉へ一緒に行けなくなったため、同行援護の利用登録をしました。同行援護の事業所によると、サウナで利用されている方は数名いらっしゃるそうです。さらに、都内の公園をランニングする団体に加入し、ほぼ毎週走りに行っています。 皆さんも、この春から始められたことやチャレンジしようと思っていることはありますか?「やりたいことがあるのにどこに問い合わせて良いかわからない・・・」という方は、スタッフにお気軽にご相談ください。自立支援室では、スポーツやインドア系の活動団体やサークル、交流の場などの情報提供をしております。情報が無ければ、館内のレファレンスサービスや外部のネットワークを生かしてお探しします。また「私、こういうことを楽しんでいます!」といった情報もぜひ教えてください。他の訓練生の方達のお役に立つ可能性があります。 さて、今年度も自立支援室のスタッフは同じ顔ぶれで、皆さんの頼れるパートナーとなるべく努めて参ります。レクリエーションでも多彩なテーマを扱っていきますので、ぜひ積極的にご参加ください。 2025年度もどうぞよろしくお願いいたします。  (市川 記) 4 エンジョイ!ブラインド・ロービジョンライフ特別編 -どうしていますか?ネット検索- インターネットにはありとあらゆる情報があり、生活や仕事での調べものにはとても便利です。しかし、なかなか知りたい情報にたどり着けずに苦労された経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。 そこで今回は、普段音声読み上げ機能を使ってパソコンやスマホを利用している視覚障害のスタッフ3人で、どのようなことを検索しているかや、操作の工夫などについて話し合いました。 池松: お二人は、普段どんなことをネット検索されていますか? 菊池: 私は外出する前に目的地までの電車の乗り換え方法や駅からの道順などの経路を調べることが多いです。 松谷: 私は、ニュースなどで聞いたわからない言葉を調べたり、料理のレシピを調べたり、いろいろな場面でネット検索していますね。 池松: 私も出かける時の経路や、おいしそうなお店の情報などを検索することが多いです。 菊池: テレビで良さそうなお店が紹介されていると、どこにあるのかなど詳しいことを検索することもありますね。 池松: スムーズに目的の情報にたどり着くには、どんなキーワードを選ぶかが大事なポイントになると思うのですが、お二人は何か工夫されていることなどありますか? 菊池: できるだけ短い単語を複数選んで入力しています。例えば肉じゃがの作り方を検索するとき、「肉じゃがを作るにはどうしたらいいですか?」のような丁寧な文章だとうまく結果が出ないことが多いのですが、「肉じゃが 作り方」のように単語で検索すると見つけやすいと感じています。 松谷: 私も、できるだけ具体的で短いキーワードを複数選んで、スペースで区切って入力して検索しています。ただ、どんなキーワードを選ぶかは、いろいろと実践を積み重ねて、自分なりの方法を見つけていくしかないのかなと思っています。 最初は漠然とした言葉だけで検索してしまい、大量の結果から絞り込んでいくのにとても苦労しましたが、いろいろと試すうち最近ではだんだんと慣れてきて、検索結果の最初に表示される10件前後を確認すれば、必要な情報を見つけられるようになってきました。 菊池: 確かに具体的なキーワードは大事ですね。例えば旅行に行くとき、目的地の最寄り駅からの道順を知りたいと思ったとします。この時、「●●(目的地の名前) 経路」だけで検索すると、電車の乗り換え案内や車で行った場合の経路などたくさんの情報が出てきてしまい目的の情報を見つけるのが大変です。ですが、「●●(目的地名) ▲▲駅 徒歩 経路」のように細かく指定すると、ぐっと結果を絞り込むことができます。 池松: 私は、使い慣れたサービスがある場合、その名前を検索キーワードに含めるようにしています。例えば、レストランを検索するとき食べログというサービスを使うことが多いのですが、このサービスではお店ごとに口コミや住所、営業時間などが読み上げられる個所はある程度一定なので、慣れてくると必要な情報にたどり着きやすくなっています。検索する際には、「高田馬場 居酒屋 食べログ」のようにサービス名をキーワードに含めると、そのサービスのページが検索結果の最初の方に表示されるので慣れたサービスにたどり着きやすいです。 ところで、お二人は、検索する際の機器はどんなものをお使いですか? 菊池: 私は手軽にさっと調べられるので、スマホ(iPhone)を使っています。 松谷: 私はパソコンを使うことが多いです。パソコンはキーボードでページ内の移動などの操作がしやすいと感じています。ただ最近は、スマホのAI検索アプリも使い始めています。 私が使っているのはChatGPTというアプリで、質問するとすぐに答えを返してくれるので、自分で結果を探す必要がなく便利です。ただ、情報に不正確な部分もあると聞くので、まずはAIの回答を参考に、結果の中で気になった単語などを改めて自分で検索して正しい情報を見つけるようにしています。 菊池: 私はまだAI関連のアプリはあまり使っていないので、今後試してみたいと思います。 松谷: ネット検索は、「こうすれば絶対うまくいく!」という魔法のような方法があるわけではないので、根気強く場数を踏んで自分に合ったやり方を探していくことが大切だと思っています。 9 便利グッズ紹介 「両面目盛の定規」 黒15cm 黒い面に白く数字や目盛りが書かれた手のひらサイズの定規。サインガイドとして活用できます。書類の記入欄の下に置くと、黒い面が不要な文字を隠すので書きやすくなります。 無印良品 税込み150円 ※訓練生I様からご紹介いただきました。 ミニ情報 「ゆうちょATMで1万円を千円10枚で引き出したい!」 金額を入れる時に「10千円」と入力してみてください。 100枚まで出せるそうです(コンビニでは20枚)! (和田 記) 10 スマホと歩行 No.1 -歩行支援ツールのメリット・デメリット- 前号まで「スマホ操作のき・ほ・ん」コーナーで約2年間にわたりスマホの基本操作を中心に取り上げてきました。今号から「スマホと歩行」というテーマで主にスマホアプリを使って歩行する際の注意点や工夫についてご紹介していきます。 最近、「アイナビ」や「Googleマップ」「マップ(iPhone)」などのアプリを活用して目的地まで歩行訓練をする機会が増えてきました。スマホアプリだけでなく、Ashirase(あしらせ)などの身に付けるナビゲーションツールも増え、AIを活用した歩行支援アプリや機器(以下まとめて歩行支援ツール)についての問い合わせも増えてきています。 ご家族や友人がスマホを使って人気のレストランや観光地などをさらっと調べ、迷わず行けている姿に影響を受けて、見知らぬ場所に行くのは不安で勇気が出ないけどスマホが使えるようになれば自分もあちこち行けるようになれるのではと期待する方もいるのではないでしょうか。 歩行支援ツールを使うメリット・デメリット(注意点)について、ツールを使えば自分の行きたいところに本当に行けるようになるのか等について、このコーナーで考えていきたいと思います。 まず、GoogleのAIであるGemini(ジェミニ)に尋ねると視覚障害者の歩行支援ツールのメリットとして以下が挙がりました。 ①目的地への誘導:音声案内によって、目的地までの方向や距離、曲がり角などを把握しやすくなる。特に不慣れな場所や複雑な道でも、安心して移動しやすくなる。 ②ルートの事前確認:事前に地図上でルートを確認したり、音声でルートの概要を把握したりすることができる。これにより、見通しを持って歩行計画を立てられる。 ③移動の自立性向上:ナビアプリを活用することで、介助なしで一人で移動できる範囲が広がり、自立性を高めることができる。 ④情報収集の容易さ:周辺の施設情報(駅、バス停、店舗など)を音声で確認できるアプリもあり、必要な情報を手軽に得ることができる。 ⑤安心感の向上:目的地までの道筋が分かっていることで、歩行中の不安感を軽減し、安心して移動することができる。 ⑥新たな移動手段の可能性:これまで移動を諦めていた場所へも、ナビアプリを活用することで挑戦できる可能性がある。 同様にデメリット(注意点)として以下が挙がりました。 ①GPS精度の限界:GPSは屋内や高層ビル街、密集した場所などでは精度が低下することがある。アプリが示す位置情報が必ずしも正確とは限らないことを理解しておく必要がある。 特に曲がり角や分岐点の手前で、アプリの指示が遅れたり、誤った方向を指示したりする可能性がある。 ②音声案内の聞き取り:周囲の騒音(車の音、工事の音、人混みの音など)が大きい場所では、音声案内が聞き取りにくいことがある。イヤホンを使用するなど、聞き取りやすい工夫が必要。 音声案内のタイミングや内容が、歩行速度や周囲の状況と完全に一致するとは限らない。 ③バッテリー消費:ナビアプリはGPSを常に使用するため、スマートフォンのバッテリーを大きく消費する。長時間使用する場合は、モバイルバッテリーを用意する必要がある。 ④画面操作の困難さ:視覚的に情報を確認することが難しいため、アプリの起動や目的地の設定、ルートの確認などの画面操作に介助が必要となる場合がある。 音声操作に対応したアプリを選ぶ、事前にルートを設定しておくなどの工夫が必要。 ⑤周囲の状況への注意:ナビアプリに頼りすぎるあまり、周囲の音や地面の状況への注意が散漫になる可能性がある。歩行中は常に周囲の状況に意識を向けることが重要。 段差、障害物、人通りなどを音や白杖などで確認しながら歩行する必要がある。 ⑥アプリの過信:ナビアプリはあくまで歩行を補助するツールであり、完全に安全を保証するものではない。アプリの指示を鵜呑みにせず、自身の判断と経験に基づいて行動することが重要。 ⑦緊急時の対応:アプリがフリーズしたり、予期せぬエラーが発生したりする可能性も考慮しておく必要がある緊急連絡先をすぐに呼び出せるように設定しておくなどの対策が必要。 上記のメリット・デメリットの各々がどれくらい視覚障害ユーザーの満足度に影響を与えるかは、ユーザーの見え方や歩行経験・スキル、費用対効果への考え方など様々な要因によって変化します。 人間はついついメリットばかりに目が行き、デメリットを過小評価しがちですが、歩行では効率性よりも安全性の確保が重要です。 歩行支援ツールによって今まで以上に効率的かつ短い距離で目的地まで歩けるようになるとしても、ナビは安全性の高い歩行ルートを選択してくれるとは限りません。 どんなに歩行支援ツールが便利でもユーザーにとってリスクとなるのであれば、最初は歩行訓練時や誰かと一緒に歩く際に歩行支援ツールの練習を行い、安全性に大きく関わるデメリットをまずは改善することが大事だと思います。 次回は、歩行支援ツールのデメリットをどのように解決していくのか考えたいと思います。 (清水 記) 15 点字ブロックよもやま話 視覚障害者誘導用ブロック(以下、点字ブロックと言います)には敷設のルールがあります。現在用いられている敷設ルール(設置指針)は、1985年(昭和60年)に建設省(現・国土交通省)が定めたものが使われています。このルールは科学的根拠に基づいて定められています。その肝ともいうべきルールはこれです。 「視覚障害者が視覚障害者誘導用ブロックの設置個所にはじめて踏み込む時の歩行方向に、原則として約60cmの幅で設置するものとする。」  例えば、まっすぐ伸びる歩道の途中にバス停があるとします。そのバス停の位置を示すために、歩道を横切るように線状ブロックを敷設するのですが、その場合1辺30cmの点字ブロックを2列になるように敷きなさいと言っています。その理由は、30cm幅しかないと踏み越してしまう可能性があり、その結果バス停の存在に気が付けないで通過してしまうからです。しかし、60cm幅で点字ブロックを敷いた場合は踏み越す確率が極めて低いことが実験で示されたそうです。  以上の理由から、確実に立ち止まってほしい場所には原則60cm幅で点状ブロックが敷かれています。その典型的な場所は交差点や階段です。横断歩道や階段の手前には歩道や階段の縁から約30cmの隙間を開けて点状ブロックを2列に敷いています。30cm開けている理由は、点字ブロックに気づいても急に止まれない場合を想定しているからです。  話が前後しますが、点字ブロックには点状のブロックと線状のブロックの2種類があります。点状ブロックは注意喚起が目的です。線状ブロックは進行方向を示しています。上述のように、点状ブロックは立ち止まってほしい場所に敷かれています。なので、歩いてきて点状ブロックを踏んだ時に立ち止まれないと何かしら危険な状況に遭遇する可能性が生じます。この理由から、点字ブロックを安全に利用するためには、点字ブロックを踏んだ瞬間に線状ブロックなのか点状ブロックなのか判断できるようになる必要があります。  今度はちょっと別の角度からの話になります。点字ブロックは原則的に歩道部分に敷かれることになっており、線状ブロックは歩道が伸びる方向と平行に敷かれています。しかし歩道上に点字ブロックを敷設できない構造があると、その進路が途絶えることがあります。例えばベンチ付きのバス停は典型的なイメージしやすい例と言えますが、驚くことにもっとも頻繁に遭遇するのはマンホールの蓋なのです。点字ブロックは歴史的にみると、厚みのあるコンクリートブロックとして作られていました。それを敷設するためには路面を掘り、点字ブロックが沈下しないように基礎工事をしっかりとする必要がありました。だからマンホールがあるとブロックを埋められないわけです。それでマンホール部分では二つの方法がとられました。一つはマンホールを直角に迂回するように点字ブロックを敷設することでした。もう一つはマンホールの部分だけ点字ブロックを敷設せずに、線状ブロックの直進方向を維持する方法です。前者だとマンホールの手前で60cm幅の点状ブロックが出てきて進行を止められ、90度ずつ3回向きを変えられて元の向きに戻ることになります。後者では線状ブロックに沿って歩いてきたら突然線状ブロックが消えますが、歩いて来た勢いのまま2歩くらい歩けば同じ方向へ延びる線状ブロックが出てきます。皆さんはどちらのパターンが良いと思われますか?私は後者の方が分かりやすいと思います。また前者の場合でも白杖で路面をなぞれば前方にマンホールがあると分かるので、そのまま進行方向を維持して歩けば線状ブロックが出てきます。  マンホールをめぐってはもう一つ面白い話があります。点字ブロックには貼り付ける簡易なものがあることをご存じだと思います。マンホールの蓋の部分に貼り付けタイプの線状ブロックを貼り、線状ブロックの連続性を維持する事例があります。とても合理的ですよね。ところが、マンホールが時々下水道の管理のために開けられることがありますが、工事関係者が蓋を閉じるときに線状ブロックがまっすぐになるように閉めないことがあります。そんなマンホールの蓋を時々見ることがあります。この場合は前述の後者と同様のパターンだと考える必要があるでしょう。  点字ブロックに注目しながら街歩きをすると、興味深い事例に出くわすことがしばしばあります。これからもそんな事例をご紹介できればと思います。 (小林 記)