日点自立支援室ニュースレター Vol.23 2026年夏号 目次 ごあいさつ・・・2 レクリエーション報告「身だしなみセミナー スキンケア/ガイドメイク・ヘアケア」・・・4 エンジョイ!ブラインド・ロービジョンライフ~お家の中での工夫あれこれ~・・・5 図書館のすすめ・・・8 Geminiライブ・動画ストリーミング機能の活用事例と課題-「スマホのカメラが目になる」リアルタイムAI対話がもたらす自立支援と実用性の検証-・・・9 歩行訓練について思うこと(1)・・・16 ごあいさつ 八月を迎え、夏本番の暑さが続いております。皆さまが体調を崩されることなく当館へお越しくださることは、私たちスタッフ一同にとって日々の励みになっております。 さて、夏の暑さとは裏腹に、実は先日、背筋が凍るような経験をしました。ニュース等でご存知のかたもいらっしゃるかもしれませんが、6月に大手通信会社KDDIのメールシステムへの不正アクセスが発生し、個人情報流出の可能性が明るみになりました。私の自宅のパソコンでは「nifty」のメールを使っているのですが、実はそのメールシステムの提供元がKDDIだったため、思わぬ影響が及びました。久しぶりにパソコンを開き、メールを受信しようとしたら、受信が出来なくなっていたのです。 まずはniftyの指示通りにメールのパスワードを変更し、一度は無事に復旧しました。しかし、その直後に身に覚えのない「メール送信エラー」の通知が180件も届いたのです。驚いて生成AIのGeminiで原因を調べたところ、私のメールアドレスが第三者に「なりすまし」として悪用されている可能性が発覚しました。この時は本当に恐怖を感じました。 程なくして、危険を察知したniftyが再びメールの送受信に制限をかけ、二度目のパスワード変更を求めてきました。すぐにパスワードを再変更し、有料のセキュリティサービスにも加入しました。現在は問題なく使えるようになりましたが、不審な動きがないか日々チェックしています。 今回の件で、niftyから今後のセキュリティ強化として以下のようなアドバイスを受けました。 ・OS(Windowsなど)やブラウザ(MicrosoftEdgeなど)、ソフトウェアを常に最新の状態にする ・ウイルス対策ソフトを最新に保ち、定期的にスキャンを行う・実在する企業を装って情報を聞き出す「フィッシングメール」等に個人情報を入力しない こうしたトラブルは誰の身にも、そしてパソコンだけでなくスマホでも同様に起こり得ます。皆様もぜひ、今一度セキュリティ対策を見直されることをお勧めします。もし設定や対策にご不安なときは、訓練に来られた際にいつでもスタッフにご相談ください。 (市川 記) レクリエーション報告 「身だしなみセミナー スキンケア/ガイドメイク・ヘアケア」 7月15日水曜日の午後、資生堂ジャパン株式会社のご協力のもと、スキンケア、ガイドメイク(女性)・ヘアケア(男性)のセミナーを実施いたしました! 参加者11名が4グループに分かれ、各グループ1名の資生堂スタッフが担当、手元に置かれた各自のトレイに、ケア製品が順次渡されました。 講師の説明に沿って、まずは製品なしで指や道具の動かし方を練習、つぎに本番。顔や頭皮を優しく触るように声掛けがあり、スタッフからの個別アドバイスも聞きながら、みなさん熱心に取り組まれました。 女性のメイクでは「ガイド指」という方法の紹介がありました。男性のヘアケアでは、頭皮に付けたヘアスプレーを手のひらで抑えるとパチパチと炭酸がはじけるような音がしてさわやかな印象でした。 ケア製品の使用量の目安が分かる道具が作られていたり、コントラストのためにトレイに黒い紙が敷かれていたり、長年取り組まれている企業ならではの工夫も多く見られました。 みなさんがどんどん笑顔になっていく様子は、自立スタッフとしてもうれしい時間でした。 (和田 記) エンジョイ!ブラインド・ロービジョンライフ ~お家の中での工夫あれこれ~ 今年6月のレクリエーションでは、お家の中でのちょっとした探し物からコップに飲み物を注ぐ際の工夫、お料理のテクニックなどご参加いただいた方同士でアイデアを交換する企画を行いました。また、このニュースレターでもこれまでに日常生活での工夫について何度か取り上げてきました。 そこで今回は、レクリエーションで挙がったアイデアやこれまでの記事の内容から、場面ごとにいくつかピックアップしてご紹介したいと思います。 1.お家の中での探し物 ティッシュボックスやスマートフォンからタンスの中の靴下まで、なくしてしまうと見つけるのに苦労する小物についてはさまざまなアイデアがありました。 ・なくしやすい小物は置き場所を決めておく ・物を床に置くと探す範囲が広くなるので、床にはできるだけ物は置かない ・ティッシュボックスはベッドの頭の上に両面テープで固定したり、いすやテーブルの脚に紐を付けてぶら下げると見つけやすい ・リモコンは柱にホルダーを付けて固定したり、100円ショップで売られているリモコン立てにまとめると便利 ・タンスの中に紙袋などで仕切りを作ると、靴下やハンカチが整理しやすい 2.コップに飲み物を注ぐ 続いては、コップに飲み物をこぼさず注ぐ方法についてです。 ・飲み物が入った容器の注ぎ口をコップの縁に当てるとこぼれにくい ・使い慣れたコップであれば、重さでどれだけ入っているかがわかる ・ガラスや金属のコップは、縁をたたいた時の音の高さで量がわかる場合もある ・自分で飲むものであれば、コップの中に指を入れると注いだ量がわかる 3.その他お役立ちアイデア 他にも調味料や洗剤の計量、お料理のテクニックなどいろいろなアイデアがありました。 ・調味料はプッシュすると一定量が出るボトルや、養命酒のキャップなどを使うと計りやすい ・卵焼きを作る際の油の量は蓮華1杯分がちょうどよいので、蓮華に油を入れてからフライパンに移すと良い ・醤油とお酢など複数の調味料を鍋に入れる時には、事前にお椀などに入れて混ぜ合わせてから鍋に入れると良い ・洗剤は固形タイプやジェルボールが便利 ・最近の洗濯機には洗剤の自動投入機能があり使いやすい 他にも、「こんなアイデアあります!」という情報がありましたら、ぜひスタッフまでお伝えください。 (池松 記) 「図書館のすすめ」 日差しが厳しい昨今の夏…涼しい部屋で読書はいかがですか! 日点版 READ ※「READ」とは、アメリカのALA(米国図書館協会)が導入した、著名人が本の紹介をする、ポスターによる読書推進事業のことです。 日本点字図書館 長岡英司(ながおか ひでじ)理事長のおすすめデイジー 山本巧次(やまもと こうじ)著『開化鉄道探偵』を紹介します。私は鉄道の紀行文や路線史が好きで、この小説も、そうした関心から見つけました。日本人だけで最初に完成できた鉄道トンネルの工事で起こる難しい事件を、かつて江戸の同心だった主人公が見事に解決します。鉄道会社に勤務していたこの著者は、他にも『急行霧島‐それぞれの昭和』 『満鉄探偵‐欧亜急行の殺人』 『阪堺電車177号の追憶』など、読み応えのある鉄道小説を書いています。 ★貸出・お問い合わせは、 図書情報課03-3209-2442(本館2階)まで。 サピエ図書館の使い方は、訓練でご相談ください! 「Geminiライブ・動画ストリーミング機能の活用事例と課題」 -「スマホのカメラが目になる」リアルタイムAI対話がもたらす自立支援と実用性の検証- 近年、生成AIの急速な進化により、視覚障害者の日常生活を強力にサポートするツールが登場しています。中でも、Googleが提供する「Gemini(ジェミニ)ライブ」の動画ストリーミング(リアルタイムカメラ共有)機能は、カメラを通じて得られる視覚情報をAIがリアルタイムで言語化し、対話形式で案内してくれる革新的な技術です。 本稿では、職場の置き菓子コーナーでの買い物体験談をはじめ、日常生活での多様な活用事例、さらに実際の利用において注意すべきデメリットや課題について包括的に解説します。 体験事例:見えない状態で「職場の置き菓子ボックス」のお菓子を選ぶ オフィス内に設置されているセルフサービスの置き菓子ボックスには、多種多様なスナックやチョコが棚に並んでいます。全盲やロービジョンの視覚障害者にとって、周囲に人がいない状態でお目当ての商品を選び、支払いを済ませることは容易ではありませんでした。 Geminiライブの動画ストリーミング機能をオンにし、スマートフォンを棚にかざすことで、以下のような一連の操作を自力で行うことができました。 手順1:棚全体を見せて状況を尋ねる 「今、棚に何が置いてある?」と質問すると、AIがリアルタイム映像を解析。「上段にはビスケットやチョコレート、中段にはクッキー類、下段には煎餅があります」と音声で回答。 手順2:欲しい商品の具体的な位置をナビゲートしてもらう 「チョコレートが欲しいんだけど、どこにある?」と問うと、「上段の右から2番目にあります」とピンポイントで案内。 手順3:手に取った商品が正しいか最終確認する 教えてもらった場所に手を伸ばしてお菓子を取り出し、カメラに見せながら「手に持っているのはこれで合ってる?」と確認。「はい、〇〇チョコです」との回答を得て、確信を持って代金を支払い購入完了。 従来の画像認識アプリとの違い・動画ストリーミングの強み 従来の視覚障害者向け支援アプリは、「静止画を撮影し、その写真を解析する」という方式が主流でした。Geminiライブの動画ストリーミングには、それに比べて以下のような圧倒的な利点があります。 操作の手間: 従来の静止画撮影アプリでは毎回シャッターを切る必要がありますが、Geminiライブではカメラをかざしたまま会話するだけで連続して認識されます。 画角の調整: 従来のアプリでは撮影失敗時に何度も撮り直す必要がありますが、Geminiライブでは「もう少し右へ」「手を下げて」とAIがリアルタイムで指示してくれます。 一連のアクション: 従来のアプリでは「探す」「取る」「確認する」が断片化していましたが、Geminiライブでは「探すから手に取る、そして確認するまで」が途切れずスムーズに行えます。 感覚的体験: 単なるデータ照会や文字読み上げツールではなく、まるで隣に親切な案内者が立っているような対話感があります。 日常生活における多彩な活用シーン 「選んで買う」体験以外にも、日常生活のさまざまな場面で独立した行動をサポートしてくれます。 ① 家電製品・機器の操作サポート エラーコードの読み取り: 洗濯機や電子レンジからエラー音が鳴った際、ディスプレイにかざして「何て表示されている?」と尋ねることで理由を把握。 ボタン・スイッチの位置特定: エアコンのリモコンや給湯器のタッチパネルで、「冷房ボタンの位置」「温度を上げるボタンの位置」を音声で誘導。 ② 服装・身だしなみのチェック 色と柄のコーディネート: 「この靴下とズボンの色は合ってる?」「持っている2枚のシャツ、どちらがストライプ?」などの視覚的特徴を確認。 状態・裏表の確認: 着用前のTシャツが裏返しになっていないか、胸元に食べこぼしのシミがないかなどの点検。 ③ 自宅での整理整頓・落とし物の捜索 探したいものの誘導: カメラを部屋やテーブル全体にゆっくり動かし、「爪切りを探してるんだけど映ってる?」と聞くことで「テーブル右奥のペン立ての横」と特定。 同型容器の見分け: 調味料(醤油とみりん、塩と砂糖)など、触覚だけでは判断しにくいボトルの識別。 ④ 郵便物・書類の仕分け 重要度の判別: ポストに届いた大量のチラシと「自治体からの通知書」「請求書」などを素早く選別。 ピンポイント確認: 振込用紙や書類の「支払期限」や「問合せ先電話番号」のみを素早く確認。 デメリットと利用上の注意点・課題 非常に強力なツールである一方、技術的な限界や運用上のリスクも存在します。 ① 誤認識・ハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスク 類似パッケージ、光の反射、小さな文字などにより、AIが誤った情報を出力することがあります。特に「アレルギー物質の確認」「薬品・処方箋の識別」「賞味期限の確認」など、健康・安全に直接関わる場面での過信は危険です。 ② バッテリー消費と端末の発熱 リアルタイムの動画エンコードおよびAIサーバーへのデータ送信を継続するため、スマートフォンのバッテリー低下が非常に早くなります。また長時間の連続使用により端末が高温になる傾向があります。 ③ 通信環境への依存 安定した高速通信(Wi-Fiや5G/4G)が不可欠です。地下や電波の弱い場所では回答が遅延したり接続が切れたりするほか、データ通信量の消費にも配慮が必要です。 ④ プライバシーと周囲への配慮 オフィスや公共の場所でカメラを動かす際、第三者の顔や機密書類、個人情報がカメラに映り込む懸念があります。利用する場所やカメラの向きへの十分な配慮が求められます。 効果的な使い方のコツ(対話型アプローチ) Geminiライブを快適に使いこなすためには、一発で回答を得ようとせず、以下のように段階的に会話を進める「対話型アプローチ」が効果的です。 ステップ1:全体把握 「今、カメラに何が映ってる?」と問いかける。 目的・効果:大まかな配置や空間の状況をAIに把握させる。 ステップ2:目的捜索 「○○を探したいんだけどどこにある?」と問いかける。 目的・効果:目的のオブジェクトの位置(上段、右奥など)へ誘導してもらう。 ステップ3:手元確定 「手で持っているこれであってる?」と問いかける。 目的・効果:接触したオブジェクトの誤認識を防ぎ確証を得る。 おわりに:「自分で選ぶ自由」を取り戻すテクノロジー Geminiライブの動画ストリーミング機能は、単に「視覚情報を代行する」にとどまらず、視覚障害者が「自分の意志で、自分のペースで選ぶ」という主体性と自由を取り戻すための助っ人となる可能性のあるツールです。しかし、使いこなすにはアプリの操作だけでなく自分の知りたい情報を的確に教えてもらうためにどのような質問をしていくと良いのかという会話術も必要になると思います。 誤認識やバッテリー消費といった課題・注意点を正しく理解し、安全に配慮しながら活用することで、日常生活の「見えない・見えにくい」ことによる制限やストレスを大幅に軽減できます。今後のAI技術の更なる進化とともに、より多くの視覚障害者にとって不可欠なパートナーとなっていくことが期待されます。 (清水 記) 歩行訓練について思うこと(1)  私は歩行訓練士になって今年で36年目になります。訓練士になる研修を受けたのは1990年のことでした。それまで私は現在の国立障害者リハビリテーションセンター(以下、国リハと言います)自立支援局のあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の養成施設部門で進路指導係を2年、肢体不自由のかたたちのケースワーカー(個別支援員)を5年務めた後に、業務命令として地方の視力障害センター勤務を命じられ、その際に4月から7月末までの4か月間、歩行訓練士として働くための研修を受けさせていただきました。幸か不幸か、転勤を命じられた同年度に視覚障害生活訓練専門職員養成課程という訓練士の養成課程が国リハ学院内に開校され、その講義を聴講する形で研修を受けることになりました。  歩行訓練理論の教科書は、世界で初めて書かれたという歩行訓練理論書の原書(英語)が使用されました。その教科書の冒頭には次のようなことが書かれています。「歩行訓練の究極の目標は、慣れた環境であれ不慣れな環境であれ、単独で以下のように歩けるようになることである。Safely(安全)にEfficiently(効率的)にGracefully(優雅)にである」。  「安全性、絶対必要だよね。効率性、必要だよね。優雅に?えー!」と思いました。晴眼者である今の自分でも優雅になんて歩けないと思ったことを記憶しています。そんな折、American Foundation for the Blindが制作したビデオを講義で見る機会がありました。そのビデオに登場したのはスーツを着た大柄の男性で、歩道の中央を颯爽と歩く様子が映し出されていました。背筋が伸び、視線は遠方に向いていました。その姿はまさに優雅で上品で、とても強い感動を覚え、その時の映像がおそらくその後、今日にいたるまで私の歩行モデルになっています。その映像を見てもう一つ感じたことは、見えない状態で優雅に歩くことは、社会に対しても大きなインパクトを与えるだろうということでした。  ここで再び3つのキーワードについて考えてみましょう。見えない状態で、どうしたら安全に歩けるのでしょうか?幅が10mにも満たない道路の上にいても、すぐに「今どこにいる」のか、「今どっちを向いている」のか分からなくなります。そんな経験をしながら歩いていると、「何かに触れながら歩きたい!」という欲求がじわじわと湧いてきます。白杖で壁や路肩を触りながら歩く、いわゆる「伝い歩き」という方法です。しかしある日の演習で「歩道を直進しなさい」という指導教官の指示を受けた私は、歩道と段差のない車道に出てしまうことが怖くて、建物側の壁を伝いながら歩き始めたところ、厳しく叱責されたのでした。「伝って良いなんて言ってない!」という強い言葉のみで、伝ってはいけない理由の説明は一切ありませんでした。でも私は指導教官の怖さと、車道に出る怖さをひたすら我慢して歩いた記憶があります。  実は、伝わなくても歩けることには多くのメリットがあります。道路の路肩にはしばしば障害物があり、伝い歩きではそれらに当たるたびに避けて歩く必要があります。また、意図しないのに私有地や駐車場に入り込んで進路がわからなくなることもあり、伝い歩きには効率性を妨げる要素がたくさんあるのです。なので、曲がり角や目的地の入り口を見つけるなど、特定の目的以外で伝い歩きすることは好ましいとは言えないのです。でも、自らそのことに気づくまでには、かなりの時間経過が必要でした。つまり、伝わずに歩けるようになることで安全性と効率性を高めることができることを、研修期間の半分以上を過ごしてようやく知ることができました。優雅に歩くには、背筋を伸ばし、視線を遠くに向けることが必要です。これは見た目の問題だけではなく、頭を障害物にぶつけにくくなるというメリットがあることを体験的に知りました。(次号に続く・・・) (小林 記) -本文終わり-