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開館にあたりて

館長 本間一夫

本間一夫写真 私が点字図書館事業を自分のライフワークにと思いたったのは、関西学院入学を志してその準備に忙しかったころのことであります。
爾来数年、遂に確固としてぬくべからざる使命感にまでなってしまいました。別にこれといった霊感的な動機があったわけではありませんが、私たちの世界が読み物にいかに乏しいかということだけは、人一倍痛感してきたつもりです。
殊に私を寂しがらせたのは、何か書き物でもまとめようとして友人と普通図書館へ出かけるときでした。
眼さえよかったら、ほとんど無料で読まれる本がこんなにもあるのにというそのいらだたしさは、われわれ盲人の世界にも、ぜひこうした機関を設立しなければという固い固い決心ともなったのであります。
そしてこのことは、「権利において、義務において、晴盲二つの世界があくまでも公平でなければならぬ」という私の持つ盲界社会事業理念の現れともいい得るのであります。ともあれ、今日わが国の一般盲人、特に男女盲青年が、いかに有益新鮮な読み物を求めつつあるかということは、最近の点字雑誌界の勃興にみても明らかであると思います。

さて、今日の盲人事業は、多く関西が関東に一歩を先んじているかにみられます。 将来においても暫くはこの態勢が続くかもしれません。しかしながら、文化事業の一である図書館だけは、わが国文化の源泉地東京にその中心を置くべきであると考えます。この意味において、私はここに「日本盲人図書館」の名のもとに、図書館一本槍を標榜して起ちました。即ち、粉骨砕身、この事業にあたり、これをものにするまでは、断じて他の仕事には手を染めぬという生き方です。国を挙げて新体制樹立の叫ばれるこの非常時局下、斯くすることが、私に許された最も正しいご奉公の道であるとも確信します。
而して、この図書館をこそ、東京の名にふさわしい、否日本の名に恥じぬものたらしむべく、若やかな希望に燃えるのであります。しかしながら、図書館事業の理論なり、実際なりについての研究は、私自身に課せられた今後の課題であり、かつ盲人事業にも経験乏しく、しかも年若い私です。この事業が健全なる成長を遂げるために、先輩、友人はもちろん、広く全盲界のご協力を衷心よりお願いいたします。
そして、皇紀二千六百年、並びに日本点字翻案五十周年の記念すべき年におけるこの企てを諒とせられ、全国盲人、特に青年諸氏が有効活発にこれを利用せらるるよう切望して止みません。
最後に私自身の祈りであり、目標である三つのことを掲げます。

一、5ヵ年計画をもって、図書館の本建築を完成すること。
一、5年を出でずして、蔵書5千冊を突破せしむること。
一、専ら、写本に重点をおき、古今の良書の点訳につとめること。

「図書館ニュース創刊号」昭和15年11月10日発行より




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