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館長就任にあたって

館長 岩上義則

岩上義則写真  館長就任が内定して間もない頃、本間会長が私の手を取って「人の運命って本当に分からないもんだねえ、岩上さん」としみじみとおっしゃるのでした。それは私自身の偽らざる実感でもあるのです。本来なら、私は本年3月末をもって定年退職することになっていましたから、もし定年が1年早くても1年遅くても他の理事の任期が半ばですのでこの度の常務理事や館長への就任はあり得ないことであり、本間会長の述懐のように、まさに運命的な就任と言えるのでしょう。私は限りなく日点の仕事に愛着を持っておりますので、昨年の常務理事就任は無条件に喜ばしいことでした。しかし、館長を引き受けるとなれば話は別で、さすがに躊躇せざるを得ませんでした。
 全国に100にも及ぶ点字図書館の中で日点は唯一の準国立的点字図書館ですし、歴史と伝統の深さ、知名度や規模の大きさのどれを取ってもトップクラスの施設であることに疑いの余地はありません。それだけに日点の館長ともなれば、内を束ねる難しさもさることながら、対外的にも影響が大きく、自分がその立場に立つことなど夢にも考えられないことでした。では、私が館長として期待されるものは何なのか、それを読み解くまでの重苦しい悩みが晴れるにはかなりの時間が必要でした。ようやくにして引き出した自分なりの答えは、37年間ひたすら現場で仕事をしてきた実務経験の豊富さを経営に反映させることだということです。いつも、業務の最前線で職員と一緒に難問の処理に当たってきたことや、利用者のさまざまな声を窓口で聞いてきた経験を生かすことこそが、従来の館長にはない特徴ですので、是非それを良さにしたいものです。IT社会が進展しているのを受けて日点の情報サービスの形態も、業務管理も、大きくインターネットに傾斜してきています。
 利用者が点字図書を読むにしても、録音図書を聞くにしてもパソコンのカを借りて行うのが当たり前の時代になっています。しかし、その一方で、パソコンやインターネットには縁遠い利用者が大勢いる事実を忘れてはいけません。縁遠い理由としては、I T活用を望んでも、近くに指導者がいない、機械アレルギーがある、機材が高額のため買えないなど、事情はさまざまです。これとは別に無視できないのが従来の読書にこだわりを持つ利用者のことです。どんなにIT文化が進展しようと、ピンディスプレイが普及しようと、自分は何が何でも点字本の体裁で読書したいんだという人のことです。それはそれで大事にされるべきであり尊重されなければならないと思っています。実は、私自身が最も好む読書がそれなのです。厚い表紙で製本され、手にずしりと来る重量感に何とも言えぬ心地よさを持ちながらページを一枚一枚めくることこそが読書の最高の醍醐味だと思っている一人なのです。
 そんな私ですから、いかにしてIT化とオーソドックスな読書を並存させるかが日点にとって極めて重大な課題であることを肝に命じていくつもりです。ただ、視覚障害者が情報を得る上での一番の弱点は選択肢の極端な不足にあるのです。多くの選択肢を用意するためには、インターネットの利用はどうしても避けて通れません。しかも、インターネットは、単に読書環境を良くするだけでなく、用具情報をタイムリーに提供したり、日点からのお知らせ事項などを迅速に流せるようにしたりするためにも有効な手段であり、大いにその活用に知恵を絞りたいものです。一層のご指導、ご協力をお願い申し上げます。

「にってんフォーラム 44」2002夏号より




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