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著者からの返信─点訳・録音の許諾を求めて1955-1978
今日、点字図書館や公共図書館等では、著作権法第37条(視覚障害者等のための複製等)の諸規定に基いて活字原本から点字図書や録音図書等を製作し、視覚障害者等の利用者に提供しています。
著作権法に、視覚障害者のための複製に関する権利制限規定が設けられたのは、1970年の改正からでした。それまで、活字原本から点字図書や録音図書(当時はオープンリールテープ)を製作するには、著作ごとに著者ら著作権者の許諾を得る必要がありました。
日本点字図書館には、点訳・録音許諾のお願いに対する著者等からの返信が、約2,000通残されています。消印の日付は、1955年から1978年にまでわたります。1970年の著作権法改正後も、第37条の規定の周知と理解が進むまで、しばらくは著作権者に許諾を求め続けていたことが分かります。
これらの返信は私信であるため、これまで資料として保管するのみでしたが、その文化的・歴史的価値に鑑み、著作権継承者・著作権管理者等のお許しが得られたものからピックアップし、順次公開してまいります。
その文面から、作家ら著者の人柄や視覚障害者の読書に対する想いがしのばれます。
点訳・録音許諾のお願いに対する返信 (著者50音順)
日本点字図書館から著者等に送付した点訳・録音許諾のお願い状
点訳許諾のお願い状 (1953年頃使用)
本文テキスト (旧字・旧仮名遣いは新字・現代仮名遣いに改めています)
拝啓 突然に、しかも印刷物をもってご挨拶申上げる失礼をお許し願います。
当図書館は昭和十五年以来、全国盲人に対し、点字書を郵送で貸出し、非常によろこばれ感謝されてまいりました。そしてこの事業の最も大きな特色は、点字出版事業がまだ発達しておりませんため、六千蔵書の過半数が、篤志家の手になる点字写本書である事であります。私共はこれを点訳奉仕運動と呼んでおりますが、美しい愛盲運動として、最近はラジオや新聞等にも屢々取り上げられるようになりました。これら晴眼者〔眼明き〕の方は、ご自分には何の必要もない点字を進んで学び、活字本を一字一字全くの奉仕で、点字に写本して御寄贈下さるのであります。こうした篤志家は全国に渉って、現在約八百名程おられます。点訳されますこれらの図書は、本館の点訳書選定委員会において、選定いたすのでありますが、この度その選定にもとづき、左記の御著書の点訳をお許し頂きたく、お願い申上げる次第でございます。
一 点訳希望の御著書
一 点訳奉仕者
この点訳奉仕の原本につきましては、日本出版協会並に全国出版協会の特別のお言葉添えをいただき、各出版社とも、点訳用原本に限り、ご寄贈いただけることになり、心から感謝致しております。
御著書点訳 【空欄】 完成の上は、この貴重な一冊が、本館を通して読書に飢え渇く多くの盲人の指先に、心からの感謝とよろこびとを以て読み取られて行くでありましょう。
ご多忙のところ誠に恐縮でございますが、これを機会に、この特殊な読書の世界をご記憶下さいまして、盲人文化向上のため今後良書のご指導とご援助を切にお願い申上げます。
御著書点訳に先だちましてお許しを頂きたく、一言ご挨拶申上げる次第でございます。
尚ご参考までに、点訳書選定委員を附記させて頂きます。
点訳書選定委員 (順不同敬称略)
日本図書館協会理事 弥吉光長
日本出版協会企画調査課長 鈴木剛男
全国出版協会常務理事 宮本信太郎
国立国会図書館一般考査部長 阪谷俊作
国立国会図書館一般考査部連絡調整課長 斎藤毅
この他に毎回点訳奉仕者代表、盲人読者代表、図書館側各一名が正式に出席協議に加わっております。
昭和 年 月 日
東京都新宿区諏訪町二一二番地
社会福祉法人 日本点字図書館
録音許諾のお願い状 (1963年使用)
本文テキスト
盲人の読書のための録音許可についてのお願い
とつぜんお便り申上げる失礼をおゆるし願います。本館は創立以来、晴眼篤志家の協力により、点訳奉仕運動を展開、点字の手書き写本をつくって、郵送貸出をつづけてまいりました。昭和三十年から厚生省の委託を受け、点字印刷書をつくることもでき、現在は両方を合せて七万(活字原本約六千冊)の蔵書を持つに至りました。
しかし、これら点字書のみでは、すべての盲人の読書欲をみたすことはできません。と申しますのは、点字を知らない盲人、中途失明者があまりに多いからであります。このため私共は「耳からの読書」の必要性を痛感し、昭和三十三年九月に「テープ・ライブラリー」を設けました。即ち原本をその通り音読してテープに録音し、そのテープを盲人に貸出す方法であります。幸いに著者諸先生をはじめ各方面の理解とご協力をいただき現在約三千本(活字原本約五百冊)のテープを持つに至りました。郵政省もこの録音テープを昭和三十六年六月から特別に無料扱いにして下さっております。
この度、私共は「テープ・ライブラリー」の中に、先生の御著書
【空行】
を、加えさせて頂きたく、企画いたしました。録音は朗読奉仕会員が研究と練習を重ねた上、本館スタジオまたは家庭で行うことになっております。貸出先は、全国の盲学校、各府県点字図書館、盲人施設及び個人で、全部無料貸出であります。
なにとぞ盲人福祉のため、御著の録音をおゆるし頂きたくお願い申上げます。同封葉書により貴意をおきかせいただければ幸甚に存じます。
昭和 年 月 日
東京都新宿区諏訪町二一二
社会福祉法人 日本点字図書館(法人印)
本文 おわり

